めくるめく現代アート
2023年8月6日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
今回ご紹介するのは、「めくるめく現代アート」という、世界の現代アーティスト、主に1950年代以降の40人のアーティストを選出し、代表作品やその人に関する重要な出来事などについて解説してくれている本です。
先日、家族旅行で四国に行った際、「現代アートの島」として有名な「直島」に立ち寄って、このブログでもご紹介したことのある建築界の巨匠 安藤忠雄氏による設計で有名な「地中美術館」を訪れたのですが、この本はその美術館のお土産コーナーで娘が買ったものです。
私は、芸術全般には無関心でありながら、「現代アート」にはなんとなく惹かれるものを感じており、縁あってランゲッジ・ヴィレッジの館内に「美術館」としてそれなりの数の現代アート作品を展示させていただいているくらいなのですが、現代アートを体系的に理解する機会は今までありませんでした。
その意味で今回の旅行は非常に良い機会となりました。
以下に、本書と本美術館、それぞれにおいて印象的だったことを書きたいと思います。
まず本書を読んで最も印象的だったのが次の記述です。(一部加筆修正)
「キュビズム」について
「20世紀初頭、フランスやドイツなどで、原色で誇張した形体を描く画家たちが現れた。目に見える世界を写実的に表現するのではなく、感情や精神を生々しく表現することを求めた。ピカソが立方体の集積のような画面を考案するのもこの時期だ。キューブ(立方体)だからキュビズムと呼ばれる。物を一方向から把握するのではなくて、あらゆる角度から見て、画面上に同時に構成する。この考えはルネサンス以降の遠近法を用いた西洋絵画の考え方を根底から覆し、様々な領域に影響を与えることとなった。また、この時期にカメラなどの科学技術の発展もあり、写実的な表現が下火になったということもある。ただそれとは逆に、機関車や飛行機、自動車など工業機械文明や都市化に欠かせない速度・運動・雑音(ノイズ)といったテーマを表現に取り入れた未来派と呼ばれる動きもあり、これがのちにファシズムと結びつくことにもなる。」
「前衛芸術」について
「1920年代に始まり、ダリやモディリアーニ、シャガールなど、夢や無意識、偶然を重要視した表現を重視したのがシュールリアリズムだ。この時期つまり、第一次と第二次世界大戦の狭間の平和な期間にパリを中心にヨーロッパに世界中から留学生が集まり、彼らがこの動きを世界に広げることになった。しかし、第二次大戦がはじまると多くの芸術家が戦地に赴かなければならなくなり、ヨーロッパにおけるこの動きは鈍くなる。またナチスのシュールリアリズムへの迫害によって、著名な芸術家の多くが自由を求めてアメリカに渡ったことで、均一的な平面、巨大なキャンパス、パフォーマンスめいた創作スタイルが特徴の抽象表現主義がアメリカで成立し、アメリカが現代アートの中心となる。キュビズム、シュールリアリズム、未来派、そしてこの抽象表現主義を合わせて前衛芸術と呼ぶ。(そもそも『前衛』というのは軍事用語で何かに対する攻撃というニュアンスがある)」
「主義(イズム)」と「アート」について
「1960年代には抽象表現主義を批判しながら、さらに純粋な抽象表現を探求したミニマル・アートが隆盛しつつも、フランシス・ベーコンや古典絵画に学んで独特な人物像を描いたバルテュスのような具象表現もなくなったわけではなく、多様な表現が生まれたという理解ができる。さらにアメリカでは戦後の経済的繁栄を背景に大衆文化や消費文化が栄え、ポップアートが生まれた。ちなみに、これまでは○○主義(イズム)と名付けられた芸術の動きが、これらのように○○アートと呼ばれるようになったのは、○○主義の時代はとにかく前の世代を乗り越えるための主義主張を持つことが重要だったのに対して、あらゆるものが同時に林立することが許容されるようになったからだ。」
このように概観して感じることは、「現代アート」はつまり、表現する方法を限定しない「なんでもあり」の芸術だと言えるのではないかということです。
そして、表現の自由を求めて旧来の芸術に対して攻撃(前衛)したくらいですから、それはその表現を受け取る側も「なんでもあり」でなければ成立しないということでしょう。
つづいて、以上のような本書によって得られた理解を前提に、今回訪れた地中美術館の現代アートの中で最も印象的だったものをご紹介します。
それは、柳幸典氏の「ザ・ワールド・フラッグ・アント・ファーム」という作品でした。
この作品は、アクリルのケースに砂を入れて砂の色の違いで表現した各国の国旗をそれぞれプラスティックの管でつなぎ、その中に蟻を放ち、彼らにこれらの中で縦横無尽に巣を作らせたものです。
放たれた蟻たちは自らの生息域をどんどん拡大し、それに従ってそれぞれの国旗のデザインは破壊されて行きます。
ちなみに日本国旗はこんな感じになっていました。
この「現代アート」をどう解釈したらいいのでしょうか。
一般的に考えられるのは万国旗が象徴するのはそれぞれの国の枠組みであり、その間を縦横無尽に行きかう蟻が象徴するのは我々人間で、この行き来が活発になればなるほど、国家の枠組みは崩れていき国境というものの存在意義がなくなるということを、蟻という動物が自然にそうすることを見せることによって、「そうあるべきだ」ということを伝えたいということなのではないかと思います。
ただ、それら国旗の中でも、原形をしっかりとどめているものがありながら、一方でほとんどの砂を持っていかれてしまってもはやどこの国か判別不能なものもあったことから、私個人としてはそれとは真逆の主張もありうるのではないかとも感じてしまいました。
つまり、「蟻の巣作り」を「グローバル経済の動き」と捉えれば、多くの人々が世界を自由に動き回ることができる一方で、その中でうまく立ち振る舞えず、存立が危機に瀕する国も人も存在するのだという受け取り方です。
本書を読むことによって、「現代アート」とは、「一般的な理解」と「個々人の理解」の違いというものが、「正解」「不正解」で評価されるものではなく、人それぞれの受け取り方でいい、まさに「なんでもあり」の芸術であるととらえることができるようになりました。