地域格差の正体
2024年5月14日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
先日(2024年5月12日)の産経新聞ウェブ版に「高速道路サブスク化という選択」と題された記事を見つけました。
本記事は、「二地域居住促進」に関する法案に関するものです。
まずは、この「二地域居住」の意味と意義について調べてみました。
「二地域居住とは、主な生活拠点とは別の特定の地域に生活拠点(ホテル等も含む。)をもうける暮らし方のことです。そしてその意義とは、地域での社会参画・協働、ふるさと回帰等、多様なライフスタイルに応えることです。いわば人生を2倍楽しむ豊かな暮らし方といえます。社会的な意義としては、人の流れを生むとともに、東京一極集中の是正はもちろん、地域活性化、地方創生、関係人口の拡大に資すること等が挙げられます。移住につながる場合もあります。」
この法案を政府は現在審議中としており、その施策を実現するためには二拠点間の交通費がネックとなるため、鉄道、航空そして高速道路という三つの有料交通手段のコストが突出して高い「高速道路」の料金のシステムに関して、現在の無料・有料の二元論的議論に加え、有料でも定額乗り放題の仕組みである「サブスク化」という第三の仕組みを設けるべきだと議論を紹介していました。
本記事のテーマであるこの「高速道路のサブスク化」というアイデアは、元トヨタ副社長の栗岡完爾氏と、元岐阜県職員で経営コンサルタントの近藤宙時氏の共著で「地域格差の正体」という書籍から得られたものなのですが、記事を読んでいてなんとなくこのタイトルに記憶があるなと思ったら、実は2年位前にアマゾンで購入したまま積読状態になっていたのを思い出し、即座に本棚から救出し、積読解消と相成りました。
本書の主張はざっと以下の通りです。
日本国内の地域格差を是正するためには、何をもってその是正の起爆剤とするかを明らかにすることと、現状それが是正されない原因つまりボトルネックは何なのかを特定することの二つが必要があります。
まず初めに、是正の起爆剤を何とするかですが、長年工業化国家としてやってきた日本だから各地に工場誘致したりすることが考えられるのですが、それはもはや現実問題として解決することは時間的にもまた労働人口の分布的にも難しい。
そこで著者たちが現実的即効性がある起爆剤として挙げたのが、「観光業」です。
この分野はほかの産業に比して、多大な時間で投資を必要とせずに活性化しうる分野であり、各地域が個別に手を付けやすいものだからです。
その場合、一般的には円安も手伝ってインバウンド需要を喚起して外貨獲得を最初から目指したほうが効率的だと考えられがちですが、著者たちは意外にもむしろ国内需要の喚起を優先するべきだとしています。
まず、その理由についてみてみたいと思いますが、インバウンドと国内需要ではそもそもそのボリュームが格段に違う点が挙げられます。
安倍政権によって2016年から大規模なインバウンドキャンペーンが行われて来日観光客による消費額は2011年時と比べ5倍の約5兆円にまで伸びたのですが、しかしこの数字も、日本人による国内旅行消費額の22兆円の1/4でしかないという事実を捉えれば、もともと1でしかないものを倍にするよりも10であったものを1割増やすほうが効率性と即効性は圧倒的に高いはずだからです。
しかも、それでも日本人の一人当たりの国内旅行消費額は国家的規模と性質がそう変わらないイギリスの41%やドイツの52%に過ぎず、伸びしろが非常に大きいというデータがあるのです。
つまり、日本人がドイツ人やイギリス人並みに国内旅行したとすると、現在536兆円の日本のGDPが一気に80兆円、すなわち15%も増えるということを意味しています。
次に、何がドイツ人やイギリス人に比べて日本人の現状の国内旅行需要をこのような低いレベルにとどめているのか、原因つまりボトルネックは何なのかについてみてみたいと思います。
これについても一般的には、バカンス文化のあるヨーロッパに比べて日本が休暇が少ないことを挙げられることが多く、実際に残業時間の多さや有給休暇の取得率の低さはドイツやイギリスの3倍ほどあるのですが、意外にも企業が主体的に制度の外枠で休みとするGW、お盆休みや年末年始の休みを加味すると、日本人が国内旅行に使える日数は実は潜在的には決して低くないと著者たちは指摘します。
その上で、著者がボトルネックとして指摘するのが、日本の国内旅行者の80%が利用すると言われるバスおよび自家用車にとって必須な「高速道路」の「あまりにも高すぎる料金」なのです。
実際に、ドイツとイギリスの高速道路は乗用車については基本的に無料なのに対して日本は24.6円/kmです。同じく有料であるイタリアの8.7円/km、フランスの15.5/kmと比べてもあまりにも高額なのです。
ちなみに、自分で運転する必要もなくまた燃料も自分で支払う必要のない鉄道料金が16.2円/kmに過ぎないことを考えてもその理不尽さが分かります。
とはいえ、山地が多くなおかつ地震国である日本は他国と比べ圧倒的に道路の建設コストが高いため、これらを無料ないしは低額に設定することは現実に不可能です。
そこで著者たちが提案するのが「サブスク(定額制)」での乗り放題という仕組みです。
そのポイントは、無料化ではないということ。
今までの議論は、無料か有料かの二元論に終始していたわけですが、無料化だと高速道路の維持管理コストも賄えないためにメリットは理解しつつも現実的ではなかったわけです。
実際に、著者たちの試算では日本全体の高速道路の収入を自動車(大型車もすべて含む)の数で割ると1台あたり800円ということで、平均すれば年間に1台26kmくらいしか高速道路を利用していません。言い方を変えれば、高速料金が高すぎるので利用を控える人が多く、せっかくの高速道路網が無駄になっているということになります。
ならば、最初から仮に800円で乗り放題という「サブスク」にすれば、確実に利用者は増えることは目に見えています。かつて2009年~2011年にわたって実施された「土日乗用車のみ1000円まで」の料金制度実施の時には利用台数が20%も増加しているので、すべての車種・全ての曜日に800円乗り放題を行えば、確実に50%以上増加するというのが著者たちの試算です。
もちろん著者たちの試算が正しいかどうかはやってみなければ分からないわけですが、ほぼノーリスク、ノーマネーでこれだけの効果が期待できるのであれば、再度の社会実験としてやってみる価値は十分あるように感じました。