失敗学のすすめ
2023年5月26日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
前回の「甘えの構造」では、「甘え」という日本人の心理の特異性について欧米との比較でみることで、それはそれぞれの言語で生きる人々の善悪を超越した心理の特異性であるというまとめ方をしました。
しかしながら、現代社会は高度な科学技術に立脚したシステマティックな仕組みとして動いている以上、「甘え」という日本人の特異性がマイナスに働く場面がおのずと多くなっていることは否めません。
そうであるならば、我々日本人は、自らの心理の特異性として「甘え」が行動原理の中に組み込まれているということを「自覚」しながら、この現代社会を生き抜いていく必要があるはずです。
欧米に伍していくときに必要なのが、その「自覚」の上での冷徹な自己分析、もっと言えば「失敗から学ぶ」という精神的タフさだと思われます。
この「失敗から学ぶ」ことができる本はないかと探していたところ、本棚の奥のほうから「失敗のすすめ」を見つけ、学生の時代からの「積読」を解消することになりました。
なにせ2000年に出版された本ですので少々情報が古いのではないかと心配しながら読み始めたのですが、冒頭から次のような記述を発見しその心配は杞憂だったことを理解しました。
「ほかの人の成功事例を真似することが自分の成功を約束するものでなくなったのが今の時代です。そのような時代に大切なのはやはり創造力です。そして創造力とは新しいものを作り出す力を意味している以上、失敗を避けて培えるものではありません。創造力を身に着ける上でまず第一に必要なのは、決められた課題に解を出すことではなく、自分で課題を設定する能力です。与えられた課題の答えのみを最短の道のりで出していく、今の日本人が慣れ親しんでいる学習法では少なくとも今の時代に求められている真の創造力を身に着けることはできません。」
本書には非常に多くの失敗の実例が生々しく紹介されていますが、著者は本職である教育の現場においても、正解を最短距離で学ぶことに慣れている学生に対して、それとは全く逆の遠回りをしながらも失敗から学ぶことの大切さを信念をもって伝えてらっしゃいます。
それによって、学生たちは失敗から学ぶことはコストも時間もかかること、しかし現存しない新しい技術を見つけるためにはそれを避けて通ることはできないこと、そしてその失敗は恥ずかしくて隠すべき対象ではなく、むしろ広くシェアして共通の資産とすべきものであることを学ばれています。
つまりこのことは、著者が体系化したこの「失敗学」の真の目的が、このような「組織が失敗を積極的に受け入れられる(失敗した個人を必要以上に委縮させない)文化」を社会に植え付けることだということを意味しています。
本書の発刊から23年を経た今現在、このことはだれもが当たり前のことのように口にする決まり文句のようになっています。
実際私も、以前に「失敗は成功のもと」というイーロン・マスクに関する記事を書いて、次のような感想を述べました。
「今回のこの成功によって、『失敗は成功のもと』という言葉を直接的な『教訓』に読み替えることができるのは、スペースX社自身が普通の会社だったら絶対隠すであろう次のような『失敗』の積み重ねを公にし続けてきたからに他なりません。」
しかし日本では、政・財・官・学と探してもこの問題が解消に向けて進んでいると確認できる分野はひとつもありません。
23年前に日本人である著者が示したこの「失敗学」の考え方をアメリカの企業が見事に体現している一方で、日本企業(に限らず日本社会全体)はそこからなんら学ぶことなかったという事実を我々は今度こそ大きな「失敗」として前向きにとらえる必要があります。