リーダーとは器である。
2014年9月7日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
だいぶ前になりますが、金融機関のセミナーにて早稲田大学ビジネススクールのMBA出張講座を受け、内田和成教授の印象的な経営戦略論の授業をご紹介しました。その第二弾として、先月中旬に杉浦正和教授の「リーダーシップ論」を受講しました。
この講義によって、リーダーシップの本質に少しだけ迫る理解ができたような気がします。今回は、その「本質」の部分を皆さんと共有できればと思います。教科書としては教授ご自身の著書「MBA~つまるところ人と組織だと思うあなたへ~」を使用しましたのでご参考まで。
教授のリーダーシップ論においてリーダーを一言で定義すると、「リーダーとは器である。」ということになります。(と私は理解しました。)
このことを理解するにはその前段階として、次のことに留意する必要があります。
ブレーンストーミング(ブレスト)というアイデア発想法があります。一つのテーマについて正誤に関係なく、自由に意見を出し合うことで統一意見や新視点を抽出する材料を生み出すための手法です。
「リーダーシップとはなにか」というテーマでブレストしてみると次の二つの概念が浮き上がってくることが多いようです。まずは、皆がついていきたいと思うような強烈なカリスマ性、すなわち「自己」を持っていること。そして、もう一つは、自らの利益ではなく組織全体の利益を追求できる「無私」の精神をもっていることです。
教授曰く、色々なところでリーダーの本質は何かを問うても、その答えはいずれもこの二つのうちのどちらかに収斂するようです。
しかし、よく見てみると「自己」と「無私」は全く矛盾する概念です。この「ある」と「ない」をどのように両立させるのかを論じることがつまるところ「リーダーシップ論」だと言えると思います。
教授は、この両立を論理矛盾なく説明するのが「リーダーとは器である」という定義だと考えられており、それに以下のような説明を加えられています。
「器はそれ自体(自己)は確かに『ある』のですが、それはあくまでも他者を受け入れるためのものです。器の中に入れるものは、従業員であり、顧客であり、取引先であり、地域であり、投資家です。そうであれば、確かに『私』の入る余地はなくなります。『ある』と『ない』はこうして大きな器を通して同時に存在でき、それゆえにあらゆるものが包み込まれています。」
そして、そのリーダーシップは器で包む中味のステージによってそのスタイルを変えていかざるを得ないものであるという考えも紹介されています。
例えば、組織の状態ごとにふさわしいリーダーシップのあり方を説いた心理学者タックマンのフレームワークです。その行動スタイルは以下のような形で変化します。
第一ステージ(フォーミング)
最初はその組織の状態が分からないわけですから、手探りです。リーダーの行動スタイルとしては、試行錯誤を繰り返しながら少しずつ進むべき方向を決めていき、何とか最初の形を作っていくことです。
第二ステージ(ストーミング)
そのように形を作っても、必ずといっていいほど内部で軋轢が生じ混乱します。リーダーの行動スタイルとしては、これらの軋轢が破壊的なものとならないように混乱を小さな段階で鎮めていくことです。
第三ステージ(ノーミング)
その混乱が鎮められていくとメンバー同士の信頼感が生まれ、グループの一体感や団結力が高まります。リーダーの行動スタイルとしては、メンバーの自由裁量と自律性を持たせていくことです。
第四ステージ(パフォーミング)
こうなってくると、メンバーは今までのように決まった役割を果たすだけでなく、お互いに補うなどの分担がスムーズとなり「成功のイメージ」を共有できるようになります。リーダーの行動スタイルとしては、タイミングよく褒めるなど調整役に徹することです。
第五ステージ(アジャーニング)
どんなグループもいつかは終わりを迎えます。そしてそのグループが成功すればそれだけ、次の仕事に対する不安も大きくなります。リーダーの行動スタイルとしては、自分たちの成功の理由を整理し、グループの満足度を高めます。そして、その満足をメンバーそれぞれの次の仕事へのモチベーションにつなげます。
とかく、リーダーシップはそれぞれのリーダーごとに「私は権限移譲タイプ」とか「私は細かく的確な指示を出すタイプ」など、スタイルを固定的なものだと捉えられがちです。しかし、このフレームワークで組織を見ると、リーダーシップの器に「私のスタイルはこれだ」という固定的な考えは当てはまらないということになります。
例えば、第一ステージで、右も左もわからない段階で「私は権限移譲タイプだから、キミたち自由にやりなさい」では、組織としてそもそも動くことができません。また、第三、第四ステージで「あれをこうしていつまでに・・・」では、メンバーのやる気が一気になくなってしまうのは明らかです。
このように、今回の講座では豊富な事例とともにこれらを紹介していただき、フレームワークに落とし込んで物事を整理することの威力を体感することができました。しかし、最後に教授は次の言葉を我々受講生に下さったことが非常に印象的でした。
「このように、ビジネススクールでは非常に多くのフレームワークを学び、ビジネスにおける「近道」を指示してくれます。しかし、これらはあくまでもツールであってビジネススクールの学生であれば皆知っていることです。ですから、フレームワークで本当の『差別化』はできないことは言うまでもありません。皆さんが、これらのフレームワークを活用することで、フレームワークの枠を超えたときに『本当の差別化』となることを忘れないでください。」
杉浦教授、非常に素晴らしい講義をありがとうございました。