住友銀行秘史
2023年9月6日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
前回、「最後の海賊」という楽天の携帯業界への挑戦を詳細が書かれた書籍をご紹介し、その記事の最後で「(本書を読んで)三木谷社長のスケールの大きさを再認識することができたことが最大の収穫でした。」と書きました。
この本は携帯電話事業に必死の挑戦をする楽天を率いる日本最後の海賊、三木谷社長を支える10人の仲間たちの活躍を中心に書かれたものですが、現在進行形で活躍する彼らとは別にもうひとり、現在の楽天をやんちゃなベンチャーから大企業へと脱皮させるために欠かすことのできない役割を果たされた方についてのエピソードがそのあとがきに書かれていました。
その方とは、2003年から2014年にかけて楽天ナンバー2として三木谷社長の参謀をつとめ、楽天の金融事業参入、プロ野球参入、TBSの株の買い占めなど、ヒルズ族のノリではどうにもならない日本のエスタブリッシュメントたちとの交渉を一手に引き受け、その多くを成功させた元住友銀行取締役 國重淳史氏です。
彼は、2014年に個人的な金銭問題で楽天を去った後、2016年に戦後最大の経済事件と言われた「イトマン事件」に関して、関係者の実名をさらしたうえでの詳細を記した本を出版することになります。
実名を挙げて暴露するというタブーを犯しての出版だったため、仕事関係の人間からは距離を置かれるようになり、その実績の大きさにもかかわらず、2023年4月に亡くなった際の葬儀は非常に寂しいものだったようです。
このように非常に複雑な事情を抱えた國重氏の最期に対して多くの財界関係者が「触らぬ神に祟りなし」の態度をとる中で三木谷社長は、堂々と供花を贈り霊前に手を合わせ、楽天を今の地位に押し上げる上で欠かせない存在だった彼に対して心からの感謝を伝えたと言います。
前置きが長くなりましたが、今回ご紹介するのはそのいわくつきの本である「住友銀行秘史」です。
読み始めてまず感じたのが、本書には具体的な人名がこれでもかというくらいに明らかにされており、見事なまでのあけっぴろげな描写がなされていたということでした。
そして、それらの登場人物の関係性が、それぞれの抱く欲に絡んで複雑に入り組みすぎていて、本書の中にある登場人物の一覧とまるで辞書でも引くかのように一つ一つ突き合わせて読まなければ、すぐに話の筋を見失ってしまいそうでした。
しかし、その複雑さ故に読むのが途中で嫌になってしまうかというと決してそうではないのがなんとも不思議です。それも、そのあまりの生々しさがなせる業にほかならないでしょう。
また、それとは別に、本書が私にとっては非常に有益だったと思える点が二つありました。
一つは、日本の「バブル景気」の熱気と崩壊というものが一体どんなものであったか、その実態を体感的に知ることができたということ、そしてもう一つは、大企業で働く経験というものを一度も経験したことのない私が、「住友銀行」というその代名詞のような企業がどのような原理で動いていたのかということを臨場感をもって知ることができたということです。
そのあけっぴろげさたるや普通の神経の持ち主では決してできないほどのレベルで、國重氏が晩年に仕事関係の人間からは距離を置かれ、非常に寂しい最後を迎えざるをえなかったというのも頷けました。
最期に、そのようなリスクを負ってでも彼が本書を書き上げた理由をあとがきから引用します。
「イトマン事件からはや四半世紀が過ぎ、本書の登場人物の中にもお亡くなりになった方が少なくないし、住友銀行も三井住友銀行として生まれ変わった。今ならさほど迷惑をかけることもないだろう。幸い私はまだビジネスの現場で生きているが、70歳になったのを機に、あの事件を語れる人間の一人として記録に残しておくのも、自分に与えられた役割の一つではないかと考えるようになった。同時に本書は住友銀行内部の人事にまつわる話も随所に登場する。人事をめぐる権謀術数は住友銀行に限らず日本のすべての大企業に共通するテーマだろう。その意味では本書は『日本大企業秘史』とも言える。私の体験が組織で生きている読者の皆さんに、多少なりとも役立てば望外の喜びだ。」