国民の底意地の悪さが日本経済低迷の元凶
2023年5月14日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
前々回の「シン・営業力」と前回の「付加価値のつくり方」で見てきたように、キーエンスという超優良企業の優良企業たる所以が、営業による「コミュニケーション」とそこからのフィードバックによる「顧客ニーズの探索」、そしてスムーズな「製造との連携」を他社が絶対にまねのできないレベルで「構造化(仕組化)」であることが良くわかりました。
それならば、「真似」が得意と言われ続けてきたにもかかわらず、キーエンス以外の多くの日本企業にはそれができず、他の先進国とは別次元の経済低迷に陥っているのかという疑問が浮かんだところで、少々衝撃的なタイトルの本が目に留まりました。
それは、以前にご紹介した「スタグフレーション」の著者である加谷珪一氏の「国民の底意地の悪さが日本経済低迷の元凶」です。
実際に読んでみると、その内容はタイトル以上に「衝撃的」な事実を突きつけてくるものでした。
著者は、タイトルに含まれる「(日本)国民の底意地の悪さ」を「表面的な近代性と実際的な前近代的ムラ社会のギャップが生み出す社会的不寛容さ」と言い換えています。
以下、私が本書の中で最も印象的だった「社会的不寛容さ」の事例を要約の上引用します。
「大阪大学の西條教授らの研究によると被験者に集団で公共財を作るゲームをしてもらったところ、日本人は米国人や中国人と比較して他人の足を引っ張る傾向が強いとの結果が得られました。具体的には、公共財に投資をすると自分はその利益を得られる一方、公共財であることから相手にも利益があるという状況を想定し、被験者がどのような行動をとるのか確かめるものです。仮に相手が投資を行わなくても、自分が投資をすれば自分は利益を得られますが、相手はその投資にタダ乗りしますから、何もせずに儲かることになります。こうした状況に遭遇した場合、被験者の行動は次のいずれかになります。相手がタダで利益を得ていても自分も儲かるので投資するという行動と、相手のタダ乗りを許せず、自分の利益が減っても相手の利益を減らす行動。三つの国民のうち日本人が特に突出して後者を選択することが明らかとなりました。しかも、この実験を繰り返していくと、日本人の他人の足を引っ張る行動が制裁として機能するようになり、徐々に協力的になっていくようです。つまり、日本人は他人の足をよく引っ張るが、一方で他人からの制裁を恐れ、過剰なまでに組織や上司に忠誠を誓い、組織の秩序をもたらすことになります。そして、それが長時間残業やサービス残業につながっていると考えられます。」
この説明を一通り読んだ私は、「他人の足を引っ張る日本人の特性が組織の秩序をもたらす」という部分に納得している自分を認識して、自分が日本人であるという事実に対してどうしようもなく恐ろしい気持ちになってしまいました。
なぜなら、前回の「付加価値」の話に戻るのですが、このような日本人の特性は長時間残業やサービス残業などの「組織の秩序」をもたらしたとしても、「価値とは顧客が感じる(決める)ものである」と「付加価値は顧客のニーズを叶えるもの」という前提からすれば、完全なる「ムダ」でしかないからです。
もうこれだけでも「日本だけがなぜ他の先進国とは別次元の経済低迷に陥っているのか」という冒頭の疑問は見事に解消されたといってよいと思いますが、もう一つダメ押しとして事例を挙げたいと思います。
「日本では新しい技術やビジネスをせっかく自国で見つけても自ら潰してしまうことが良くあります。そして、その間に他国がその技術やビジネスに目をつけ、ノウハウを蓄積して形にした結果、その国にお金を払ってそのサービスを利用することになるのです。その典型例が『ドローン』です。この分野は当初日本は圧倒的に先端を行っており、圧倒的なシェアを握ると考えられていたのにもかかわらず、日本国内では『危険だ』『あんなものはオモチャだ』といった感情的な反発が強く、実際に空を飛ばす実験は事実上禁止された状態が長く続きました。この間に中国企業はあっという間に実力を蓄え、今では圧倒的なナンバーワンとなっています。」
ドローンという新しい技術の普及によって自分の生活が便利になったとしても、それ以上に儲かる人がいるのは許せず、それなら新しいものは普及しないほうがマシと考えるというのが日本人の特性であったとしたら、すでに他国の真似では新たな価値を生む出すことができない成熟段階に入った多くの日本企業がゼロ成長、マイナス成長に苦しんでいるという事実は、疑問でもなんでもなく至極当然のことと理解せざるを得ないのではないでしょうか。