代表ブログ

「中高生の英語力の目標」問題について

2023年5月21日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

先日(2023年5月17日)、時事通信の記事に「中高生の英語力」に関するものがありましたので以下要約します。

「全国の公立中学・高校生で、英検3級相当以上の英語力がある中学3年生の割合が49.2%、英検準2級相当以上の高校3年生は48.7%だったことが17日、文部科学省の22年度『英語教育実施状況調査』で分かった。前回調査からそれぞれ2.2ポイント、2.6ポイント上昇し向上傾向は続くものの、同年度までの政府目標だった50%には届かなかった。」

次にもう一つ同じく時事通信の2023年3月8日の過去のニュース記事を取り上げます。

こちらも以下に要約します。

「現行の文科省の教育振興基本計画(18~22年度)では中学校卒業段階で英検3級相当以上、高校卒業段階で準2級相当以上の生徒の割合を5割以上にするとする目標を立てていた。それによって中高生の英語力は年々伸びており、21年度時点の割合は中学卒業段階で47%、高校卒業段階で46%。調査は、英検といった外部検定試験の資格などを取得した生徒と、教員がそれに相当する英語力があると判断した生徒を合わせて集計した。この度、文部科学相の諮問機関である中央教育審議会は、23~27年度の教育施策の方針を示す新たな教育振興基本計画をまとめ、5年後の中高生の英語力について、中学校卒業段階で英検3級相当以上、高校卒業段階で準2級相当以上の生徒の割合を6割以上にする目標を盛り込み、政府は23年度の早い時期に計画を閣議決定する。」

この二つの記事から読み取れることは、21年から22年の一年間で中学では2.2%伸び、目標の50%まであと0.8%、高校では、2.7%伸び、目標まであと1.3%で、目標未達とはいえほぼ期待に沿う結果に届いたと言えるからこそ、次のステップとして目標を10%高めて60%とすることを政府として決めたということです。

とこのように、厳密にいえば「未達」だとしても、この記事だけを見れば英語教育関連では近年まれにみる非常にポジティブなものでしたが、私はこの記事の内容にはそう単純には喜ぶことができない重大な問題があることに気づいてしまいました。

それはこの結果の内容と以前(2016年2月5日)に書いたこのブログの内容との間の差があまりにも大きいという事実です。

以下に、そちらの記事の要約をそのまま引用します。

「調査は全国の国公立の中学3年生6万人と高校3年生9万人を対象に実施され、中3では当初の目標の『英検3級程度以上』の生徒の割合が最も高い『書く』でも43.6%、『読む』は26.1%、『聞く』は20.2%にとどまり、いずれも目標を下回った。高3では、昨年の調査に引き続いて二回目の調査だが、目標の『英検準二級~二級』の生徒の割合が『読む』は32%、『聞く』が26.5%、『書く』が17.9%、『話す』が11%となっており、昨年の結果である『中学生レベル』が4技能ともに70~80%だったのに比べるとやや改善した。今回の高3は『脱ゆとり教育』を掲げた新学習指導要領の実施で学ぶ内容が増えた生徒たち。」

この記事では「英語力」を4技能別にしているので比較しにくいですが、仮に「書く」「読む」「聞く」「話す」をそのまま平均したものを「英語力」とした場合、2016年当時の中学の結果は30.5%、高校の結果は21.4%ということになり、2016年からたった6年で中学で18.7%、高校では27.3%の改善がみられてということになってしまいます。

これはどう考えても納得がいく数値とは言えません。

このあまりに大きな「差」を説明するものとして私は、2021年と22年の調査が、「英検といった外部検定試験の資格などを取得した生徒と、教員がそれに相当する英語力があると判断した生徒を合わせて集計」するという手法で行われていることを挙げます。

つまりは、教育する側の「お手盛り」評価です。

このことを認めた上で本来文科省がやるべきことは、「23年度以降の目標を60%に引き上げること」ではなく、中学高校の教育成果を「英検」などの外部の試験に頼るのではなく、独自の、しかし「お手盛り」ではないきちんとした評価基準を作ることであると考えます。

そもそも、この調査が「英検といった外部検定試験の資格など」を基準、すなわち「測定可能範囲」も「対象使用言語領域」も異なる試験を同一基準にするというあまりに比較可能性を無視した形で行われていること自体に大きな問題(この点についてはこの記事をご参照ください。)がありますし、教育行政として独自の評価を作れないでその重要な部分で民間試験におんぶにだっこではまともな指導などできるわけがないと考えるからです。

結局のところ、この問題の本質は「大学入試の英語民間試験導入問題」と同じところにあると私は考えます。

 

◆この記事をチェックした方はこれらの記事もチェックしています◆