日本人と英語

リーディングよりリスニングが本質的に難しい理由

2022年11月21日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「英語独習法」からテーマをいただいて書いていきますが、第四回目のテーマは「リスニングの本質的な難しさ」です。

本書では、リスニングがリーディングに比べて本質的に難しくなるという原因が大きく分けて二つあるとされていました。

まず一つ目は、「音の情報処理」は人間の発達過程における早い段階で身に付くものであり、その分最も深く身体化され、言語の情報処理に際して全く意識に上ることなく自動的に使われるようになるものであることです。

前回の「日本人の英語のぎこちなさの源泉」の記事の中で、「英語の単語の意味を推論する際に日本語のスキーマが邪魔をする」という事実を確認しましたが、それと同じことが「音の情報処理」、すなわちリスニングにも言えるわけですが、「音のスキーマ」は「意味の推論」と比べてもずっと大きな影響を与えてしまうということです。

二つ目は、リスニングは、その形態からしてリーディングよりもずっと認知的な負荷が高いという事実です。

というのも、リーディングは途中で意味が追えなくなってしまったとしても戻って再度読むことができる上に、読むスピード自体も自分でコントロールできますが、リスニングは聞こえてくる音声のスピードを自分では調節できないからです。

しかも、生身の人間が相手で且つ自分一人に話しかけてくるような状況ならまだしも、リスニングは録音された媒体からの音声のみを対象とするので非常に難易度が高くなるのです。

このことについて、著者は認知科学における非常に興味深いの知見を明示しながら以下のように説明してくれています。

「人は耳から入ってくる情報を全く何も考えず受動的に受け取っているわけではない。常にスキーマを使って、次の展開を予測しながら聞いている。次にどのような意味の内容を話し手が言うかを予測し、そこから単語も予測する。ここで『ダルメシアン知覚』という面白い認知科学の知見をご紹介する。

ここに一見すると何なのかわからない画像がある。しかし、そこにあるべきもの(ダルメシアンという種類の犬)が分かると、見るべきものが浮かび上がってくるという現象である。『聞く』時も同じである。どんなに優れた音素の聞き分け能力を持っていても、どのような内容の言葉が耳に入ってくるかが予測できないと、知っている言葉でも聞こえない。子供と違って大人は豊かな概念と理解力を持っている。細かい音の聞き分けが出来なくても、相手が話している内容についてのスキーマを使うことによって、大体何を言っているのかが分かり、次に現れる単語も予想することができる。その逆に、予測ができないと、熟知している単語でも聞き取れない。人間はその予測を耳からの情報のみに頼るわけではない。話し手の表情や文脈情報はとても大事だということがこのことからよく分かるはず。それらが全く得られない不自然な環境下で行われるリスニングは本質的に難しくなるのは当然だ。(一部加筆修正)」

この様なリスニングに関する本質的な理解を持っていれば、語彙と音声の学習にどのようなトレーニングを用いたらよいかということが明確になってくるはずです。

次回以降はその方法論について見ていきたいと思います。

 

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