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サイコパス

2024年4月21日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

いつもとは趣の異なる本を紹介したいと思います。

タイトルはズバリ「サイコパス」で、著者はワイドショーなどのコメンテーターとしておなじみの脳科学者の中野信子氏です。

そもそも「サイコパス」とはどういった人を指すのでしょうか。

本書の「はじめに」では、次のように解説しています。

「サイコパス(psychooathy)には、その実態を指し示す適切な訳語がいまだにありません。また、今日の精神医学において世界標準とされている『精神障害の診断と統計マニュアル』の最新版には、その記述がありません。精神医学にはサイコパスというカテゴリーはなく、『反社会性パーソナリティ』という診断基準になります。」

このように明確な定義がなされていない以上、誤ったイメージやぼんやりとした印象が流布しているのも無理はないと言いますが、次のように続きます。

「ところが近年、脳科学の劇的な進歩により、その正体が徐々にわかってきました。脳内の器質のうち、他者に対する共感性や『痛み』を認識する部分の働きが、一般人とサイコパスとされる人々では大きく違うことが明らかになってきました。また、サイコパスは必ずしも冷酷で残虐な殺人犯ばかりではないことも明らかになっています。大企業のCEOや弁護士、外科医と言った、大胆な決断をしなければならない職種の人々に多いという研究結果もあります。(中略)疫学的調査も進んでおり、この障害はグレーゾーンのような広がりをもって分布しており、情動面、対人関係面、行動面においてそれぞれスペクトラム(連続体)をなすものとされており、おおよそ100人に1人くらいの割合でその診断がなされるものです。また、10%の割合で存在しているということは、人類進化の過程で淘汰されることなく生き残ってこられたということでもあります。つまり、サイコパスの生き方は普通の人からすればとんでもないものに見えますが、生存戦略としては意外と有効なのかもしれません。」

こんな文章を読んでしまったので、そこで読むのを終わりにすることは到底できず、いつもと趣の異なるこの本を最後まで読まずにはいられなくなってしまったというわけです。

以下、本書から学んだサイコパスに関する知識を備忘録的に書きます。

◆ サイコパスは他人がどうなろうとその相手を思いやるということはありません。論理的な思考や計算はできますが、他人への共感性や思いやり、恥の意識、罪の意識がすっぽり欠落しているのです。

◆ サイコパスは重度の統合失調症などとは異なり、妄想や幻覚と言った症状はありません。まとも意思決定ができないような心神喪失・耗弱状態ではなく、むしろ意識は明晰であることは分かっています。他の精神疾患の場合、患者自身が悩んだり、苦しんだりしますが、彼らにはその状態に対する不快感がほとんどないのです。

◆ 男性のほうが女性よりも圧倒的にサイコパス性向が高いと言われる一つの大きな理由に、心拍数の低さが挙げられます。それはなぜか。モラルに反する行動をするとき、一般の人間は心拍数が上がります。それによって不安感情が喚起され、そのシグナルによってそのような行動を抑制したり、反省したり、中止したりすることができるのです。また、心拍数の低い人間は、危険な状況、緊張するような状況に陥った場合にも、その感じ方が鈍いので、普通の人がどのような不快な気持ちになっているかが理解しにくい。だから、心拍数の低い人間は、相手への共感性に乏しく、反社会的な行為へのハードルが低くなるという訳です。

◆ 相手への共感性に乏しいのに他者の心をもてあそんで騙したりすることができるのは、彼らが相手の目つきや表情からその人が置かれている状況を読み取る才能が際立っているからです。人間の目のあたりだけの情報で相手の感情を読み解かせる場合、一般人の正答率が30%なのに対し、サイコパスの正答率はなんと70%にもなります。つまり他人が「悲しんでいる」「苦しんでいる」目つきを見て、「自分自身が共感する」ことはないけれども、他人がそのような心理状況に置かれていることを読み取ることには優れているのです。

◆ サイコパスの行動は「他者から邪悪な意図を感じる」という認知バイアスを抱えていることによって引き起こされている可能性があります。つまり、「周囲の人間が自分に敵意を持っている」という認識があるからこそ彼らも敵意をもって対抗しているという訳です。この世が悪意に満ちた世界に見えているのだとすれば、サイコパスはなかなかに哀しい存在であると言えます。

本書は基本的にこのように、サイコパスが非常に危険な存在であると思わざるを得ないような研究結果を淡々と書きつられていくので、どうしてもサイコパスをただただ「厄介な存在」として否定的にとらえざるを得なくなってしまいがちなのですが、最後に次のような科学者らしい見方を提示してくれています。

◆ しかし、人類という種の繁栄にはサイコパスが必要だった―そういう個体が一定数存在していたほうが、マクロ的な視点から見れば、人類の生存に有利なこともあったのかもしれません。人類はアフリカで誕生後、短期間に急速に分布域を広げています。リスクを恐れず、未開の地への移住を試みた祖先たちの中にはサイコパスが存在していたはずです。大航海時代の探検家やアメリカ西部を開拓していった人たちの中にも、恐怖や不安を知らないサイコパスがいたでしょう。率先して危険を省みずに行動した彼らがいたからこそ、普通の人たちが鼓舞され、追随できたのかもしれません。しかも、人類の歴史は生き延びるために暴力的で混乱の渦中にあった時代のほうがずっと長いわけですから、サイコパスの遺伝子が生存に有利だったから消滅していないということなのでしょう。100人に1人しかいない資質は、逆に言えば貴重なものです。これを生かし、他人に危害を加えず働ける場所、うまく生きられる方法が、必ずあるはずです。

著者のこのような「まとめ」のおかげで、私としては心のバランスをある程度とることができました。

 

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