日本人と英語

認知科学的な「語彙記憶法」

2022年11月21日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「英語独習法」からテーマをいただいて書いていきますが、第五回目のテーマは「認知科学に則った語彙の記憶法」です。

前回の記事にて、「ダルメシアン知覚」という認知科学の知見をご紹介して、人間の認知が単なる「文字情報」や「音声情報」だけでなく複合的な情報を総動員することによって大きく高められるという事実を確認しました。

「語彙の記憶法」に関して、世間一般的には、リーディングで言えば「多読」やリスニングで言えば「多聴」といった大量のインプットによる方法論が効果的だと認められていますが、著者はこれらを「認知心理学的には何の根拠もない」と明確に否定しています。

今回・次回と二回にわたって「認知科学に則った語彙の記憶法」としての「多読(今回)」、そして「多聴(次回)」についての著者の考察について見ていきます。

著者は、「多読」を否定しながら、一方で肯定されるべきは「熟読」を利用した「語彙の記憶法」だと断言しています。

それでは以下に、本書よりその「語彙の記憶法」の具体的な紹介部分を引用します。

「リーディングから語彙を増やすには一度読んで文意を読み取って終わりにするのではなく、何度か読み返すことである。一度目は多読の作法に則り、辞書を引かずに読み通し、内容を読み取ることに集中する。その時、自分が知らない気になる単語があったら、とりあえずマークだけしておく。二度目はゆっくりと読み進め、マークした単語をまず辞書で調べて、一度目に読んだときに推測した意味が正しいかどうか確かめる。長い文章だったら、一部分だけでも良い。辞書を引くときは、最初の語義だけではなく、最後まで目を通し、どの語義がその分に当てはまるかを確かめる。そして、もう一度文章を読み直し、辞書に書かれていた意味が本当に文脈にあっているかを吟味する。ここまですると、その単語に対して深い情報処理がなされ、単語の意味が記憶に定着する可能性が高い。気になる単語はさらにコーパスで深堀して、同じネットワークに属する関連語や類義語を調べ、それらとの違いを考えると、究極に深い処理がされ、英語スキーマの気づきにつながり、記憶にしっかり定着するはずだ。」

この著者の説明の中で重要な部分を段階ごとにまとめると次のようになると思います。

① ざっと読んで分からない語彙の意味を「推測」する。

② 推測した意味が正しいかどうかを辞書で「確認(最初の語義だけでなく全ての語義を確認して最適な語義を確認)」する。

③ その最適だと思われる語義を文脈の中でも機能しているか「吟味」する。

④ さらに気になる場合はコーパスで関連語まで「拡大」する。

これらのステップは全て、できるだけ記憶に絡めさせるための方策の確保が目的だということが分かるのですが、逆に言えばそこまでしなければ人間の記憶は定着しないということでもあります。

著者は、そのような私たち人間の記憶の脆弱さについて非常に興味深いエピソードを紹介してくれていますので、そちらも以下に引用します。

「英語学習における『多読』の限界について理解するために人間の認知の仕組みについて考える。職場や実家への通り道で何百回、何千回眺めてきた光景があると思う。ある時突然建物が取り壊され、更地になったり、別の店に変わったりすることがある。その時、前にどんな建物があったのか、前にどんな店があったのか思い出せないという経験はないだろうか。私は頻繁にある。結局、人の情報処理は、基本的に『目的思考的』で、必要のない情報には注意を向けない。そして注意を向けなかった情報は記憶されないのだ。ある特定の情報を得るために何かを見ていると、それ以外の上方はほとんど見ていないし、注意を向けず、漠然と『見る』だけでは詳細はおろか、見たことすら覚えていないことが多い。何かを記憶し、それを定着させるには、見るべきものに注意を向け、更に、その情報を深く処理することが必要である。」

この職場や実家への通り道のエピソードは私もずっと感じていたことですし、あまりにも見事に「忘れる」ことがあるので、自分の頭を心配してしまうこともしばしばだったのですが、人間の脳のデフォルト設定が「目的思考的」であるということを知ることができたことで正直「ホッと」しています。(笑)

次回は、それを「音声情報」に当てはめてみていきます。

 

◆この記事をチェックした方はこれらの記事もチェックしています◆