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このままではイスラエルは中東の北朝鮮になる

2024年5月1日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

外国人を読者に想定して書かれた外国メディアのニュースを日本人に紹介するという手法をとる「クーリエジャポン」の記事を今までにも何度かご紹介してきましたが、今回はいつにも増してショッキングなタイトルの記事を見つけましたのでご紹介します。

そのタイトルとは、「このままではイスラエルは中東の北朝鮮になる」というもので、その記事を書いたのは以前にこのブログで紹介した「サピエンス全史」の著者でイスラエル人歴史研究者ユヴァル・ハラリ氏です。

その国の国民である新進気鋭の有名研究者が堂々と自国批判を展開している時点で、まだまだ「北朝鮮化」しているというのは大げさな気がしますが、前回ご紹介した本を読むことでハラリ氏の分析力のすばらしさは把握済みですので、すぐにこの記事に飛びついたという訳です。

以下、記事を要約します。

「イスラエルは今後数日のうちに、歴史的な政策決定を下さなければならない。それは今後何世代にもわたってイスラエルの運命と地域全体の運命を左右しかねないものになるだろう。しかし、残念なことに、ベンヤミン・ネタニヤフ首相と彼の政治パートナーにそうした決断を下せる能力がないことは、すでに何度も示されてきた。戦争は政治的目的を達成するための軍事的手段である。その成功を測るのは、目的が達成されたかどうかだ。(ハマスが起こした)10月7日の恐ろしい大虐殺の後、イスラエルは人質を取り戻し、ハマスの武装を解除する必要があった。しかし、それだけではない。イランとその影響下にある勢力がイスラエルの存亡にかかわる危機を起こしうることを考えると、西欧民主主義国との同盟も深める必要があった。穏健なアラブ諸国との協力関係も強化し、地域秩序を安定化させるべきだった。しかし、これらすべての目的をネタニヤフ政権は無視した。人質全員の解放も、ハマスの武装解除もできなかった。さらに230万人のパレスチナ人がいるガザ地区に意図的に人道的な大惨事を引き起こし、イスラエル存立に関する道義的・地政学的な基盤までをも損なわせた。孤立したイスラエルはいつまで生き残れるのだろうか。イスラエルにはロシアのような豊富な資源はない。商業的、科学的、文化的な世界との繋がりを失い、米国の武器や資金も得られなくなったイスラエルに待ち受ける最も楽観的なシナリオは、『中東の北朝鮮』になることだ。現実に起きていること、現状に至った理由を否定し、そういう主張を認めないイスラエル市民があまりにも多すぎる。米国や世界中の若い世代は、イスラエルは人種差別的で暴力的な国であり、何百万人もの人々を家から追い出し、飢餓に陥れ、復讐以上の理由もなく何千人もの民間人を殺害する国だと考えるようになった。ネタニヤフ政権が採った政策は破滅的で、イスラエルを存亡の危機に陥れてしまったのだ」

そして、その記事は「孤立したイスラエルは完全敗北に近づいている」という記事に続くのですが、その中の次の一節が非常に印象的でした。

「もちろん、民主主義国家には自国を防衛する権利、いや義務がある。戦争においては、重要な政治的目的を達成するために非常に暴力的な行動が求められる場合もある。しかし、10月7日以降のイスラエルによる行動の多くは復讐心、あるいは何十万人ものパレスチナ人をガザから永久に追い出したいという、さらに悪い願望に突き動かされていたように思われる。ネタニヤフは復讐することを選んだ。復讐のためだけに、パレスチナ人とイスラエル人全員の頭の上でガザの神殿を崩すことを選んだ。『旧約聖書』に登場する目を失ったサムソンのように。イスラエル人は聖書をよく理解しており、その物語が大好きだ。しかし、10月7日以降、なぜ私たちはサムソンを忘れてしまったのだろうか。その答えは、サムソンのメッセージが怖すぎるからだろう。サムソンは『私は復讐する。私の魂がペリシテ人とともに滅びるように』と言った。10月7日以降、私たちは多くの点でサムソンと似てしまった。思い上がり、盲目的になり、復讐や心中を志向した。ペリシテ人に仕返しをするためだけに自らの魂を滅ぼした、虚栄心の強い英雄を思い出すのは、あまりにも恐ろしい。」

【サムソンはイスラエル民族がペリシテ人(パレスチナの語源になった民族だが、考古学的にはエーゲ海方面の民族で現在のパレスチナのアラブ人とは無関係ということが分かっている)に支配されていた時代のイスラエルの怪力の持ち主で、彼らに復讐をすることだけに生き、その怪力で何人ものペリシテ人を死に追いやる英雄として生きてきたが、ペリシテ人の愛人を持ち、彼女にその弱点(長髪が怪力の源)を吐露したことでペリシテ人に捉えられ、目をえぐられ見世物にされることになった記が、一時的に神に怪力を再び与えられ、建物を倒壊させ、3000人のペリシテ人を道連れに自らも死んだ。(旧約聖書 士師記)】

イスラエル国民は人類史上類を見ないほど長期間にわたり、そしてあまりにも残虐な仕打ちを受けた経験を持つ人々であることは確かでしょう。

しかし、それでもその忌まわしい記憶を「復讐心」にのみ転化し、同様のことを相手に執拗にし続けることを躊躇しないのであれば、彼らは国家として何を目的にしているのかについて、私たちが理解・共感することは不可能になります。

そのことにイスラエルは国家として気づかなければならないわけですが、イスラエル国民であり、世界的にも尊敬を集める歴史学者であるユヴァル・ハラリ氏がこの記事を書いているということが、唯一かつ微かな希望のように私には思えました。

 

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