日本人と英語

「TOEICの生みの親」の嘆き

2022年8月17日 CATEGORY - 日本人と英語

(北岡靖男:1928-1997)

書籍紹介ブログにてご紹介した「英語が出来ません」からテーマをいただいて書いていこうと思いますが、第一回目のテーマは「TOEICのもともとの趣旨」についてです。

「もともとの趣旨」という言い方をしたということは、現在の趣旨というか方向性が本来のそれとは異なっているということを意味します。

というのも、私は長い間、「TOEIC」というテストの日本での使用の仕方が本来あるべきところから外れてしまっているという確信の下に、「SEACT」というテストを自ら開発して、その使用の仕方の不十分さを補おうとしてきました。

ただその確信は、TOEICという試験自体の価値を否定するものではなく、あくまでも「使用の仕方」に問題があるとしているのであって、その問題を作ってしまっているのは「運営者(ETS)」だけではなく「利用者」である受験者(受験を促す企業団体も含め)でもあると思ってきました。

本書には、まさにその部分の問題に関して、TOEICの生みの親である北岡靖男氏が生前語った内容が明らかにされていました。

まずは、北岡氏をご紹介します。

「TOEICの生みの親が日本人ビジネスマンだったことはあまり知られていない。北岡靖男さんその人は1928年生まれで戦後約20年間米タイム・ライフ社に勤め、1974年にアジア総支配人を最後に退職し、独立して国際コミュニケーションという会社を立ち上げ45歳で社長になった。独立したのは、長年日米を舞台に仕事をする中で日本人の英語能力の低さを痛感したのが理由だ。コミュニケーションが取れないで物だけ売ったり、お金だけ動いている状態では日本はやっていけなくなるだろう。外務省とか特定の企業とか、国際本部とかの専門家だけではなくて何百万何千万の日本人が英語のコミュニケーションのスキルを獲得しなければいけない時代が来るだろうということを考えた時、日本には英語教育の方法論はたくさんあっても、みんなが納得できる物差しがないことに気づき、客観的なデータが出るものを作ろうと考えた。北岡氏は、アメリカにTOEFLを作るETSという機関があることを知り、そこで新しい英語能力試験の必要性を訴え、実現にこぎつけた。」

続いて、北岡氏がその問題の核心に触れた内容を引用します。

「晩年、北岡氏は自ら作ったTOEICについて、このようにぼやいていた。『英語学習のための物差しを作るつもりだったのに、英語学習を強制する道具になってしまった』彼にとってTOEICとは、英語能力を客観的に測るための『物差し』だった。イメージとしては健康診断や体力測定に近い。自分の健康状態や体力の現状を知り、生活改善(英語力向上)に役立てるというものだ。生前、何度も強調していたのが、『TOEICは試験対策をして受けるものではありません』『そんなことは間違いです』ということだった。確かに血液検査やレントゲン撮影のために対策するという人はいないだろう。資格試験や検定試験に見なされることにも違和感があっただろうし、『選抜や足切り』に使われることを否定的に語っている。『大事なことは、対策が立てられないことであり、対策があるとすれば、コミュニケーション能力をつけることしかありません。それがスコアになって出てくるに過ぎないのです。』と。」

この問題点については私も、「TOEICは試験対策をしない状態で650~700位取れることを確認したらあとは英語を使用することで上達を目指すのがあるべき姿ではないか」とこのブログでも指摘してきました。

これは決してTOEICだけの責任に帰するべき問題ではなく、受験者一人一人が何のために受けるのかを真剣に考えることで解決すべき問題だともいます。

これからは私も健康診断の腹囲測定時におなかを引っ込めようとしないようにします。(笑)

 

◆この記事をチェックした方はこれらの記事もチェックしています◆