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イーロン・マスクの「予測不可能性」と「決断力」

2023年9月20日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

「優秀」な経営者が下す「決断」というものは大抵、それが明らかにされたときに、「なるほど!」とか「さすが!」と言った言葉を伴いながらその意味をすぐに理解できるものです。

ですが、「天才的」な経営者が下す「決断」というのは誰もが瞬時にはその意味を理解できないことが多いようです。

イーロン・マスク氏についてはこのブログでは何度も取り上げてきましたが、先日(2023年9月19日)のテレビ朝日報道ステーションの大越キャスターの彼のオフィシャル(マスク氏自身が正式に発刊を認めたもの)な伝記本「イーロン・マスク(上・下)」の著者 ウォルター・アイザックソン氏への40分以上にわたる独占インタビューを見ました。

このビデオでは開始早々、実に衝撃的なことが著者の口から語られています。

それは、著者がマスク氏に対してこの伝記本の執筆にあたって内容に関して一切の干渉をしてくれるな、そして発刊前に本人に一切原稿を見せないという条件を突きつけ、マスク氏はその条件にOKを出したという事実です。

おそらく、イーロン・マスクのオフィシャル伝記の出版権利は誰もが欲しいものであり、その主導権は間違いなくマスク氏が握ることができるはずなのにもかかわらず、その権利を一切放棄し、過去にいわゆる「難しい経営者」であるスティーブ・ジョブズの伝記本を手掛けた実績のあるウォルター・アイザックソン氏に一切忖度なしの真実性を委ねたということなのだと思われます。

ここでも、彼自身、世間には彼のことを「変人」としてポジティブにとらえない人間がかなりの数いるという事実を知っているでしょうし、この本にもネガティブな見方を前提としたエピソードを書かれるリスクも承知しているはずなのにもかかわらず、そんなことに対する頓着は全くないというところに彼の非凡さを見出すことができました。

そんな忖度フリーの話題作に関するインタビューであったのですが、私は次の三つの言及部分をこの対談の中から引用して、彼の幼稚な「予測不可能性」と非凡な「決断力」についてより詳しく見てみたいと思います。

まずは「予測不可能性」について一つ。

映像の9:52あたり(旧ツイッターであるXの経営に関しては彼の予測不可能な投稿によってうまくいっていないのではないかという質問に対して)

「まさにそのとおり、例えば彼が友人と旅行中にも突然に予測不能な投稿をしてしまうので、友人はマスクからスマホを取り上げてホテルの金庫の中にしまって使えないようにしてしまいました。しかし、マスクは投稿をしたい衝動をどうしても抑えられず、幼稚にも周りに当たり散らし、夜中の3時にスタッフを呼び出し金庫を開けさせました。彼は心が陰の状態にある時にはこのような行動に走ったり、差別的で偏見に満ちた攻撃的行動をしてしまうのです。私もできることなら彼の親指に『衝動抑制ボタン』をつけてそれをさせないようにしたいです。ただ、私は伝記に『仮に抑制ボタンで衝動的な行動を抑え込んでしまったら、ロケットを衛星軌道に乗せられる人物を世に出すことができるだろうか?縛られない自由なマスクこそが火星やEVの時代への代償かもしれない。』と書きました。もちろん、そのような彼の行動は許されるべきものではありませんが、私はできる限り読者に彼の心のうちを理解してもらえるように努めたのです。」

次に「決断力」について二つ。

①19:26あたり

「ウクライナ戦争が始まった時、ロシアによってあらゆる通信システムが妨害される中、唯一残ったのがマスクが開発したスターリンク(*)でした。彼はウクライナ軍から直接『助けてほしい』というSOSを受け取り、スターリンクのアンテナを100台、200台、1000台と無償提供してウクライナ軍の通信を可能にしたことで、ウクライナの初期の抗戦を支えたのです。」

*スターリンクとは高度500キロメートル程度の低い高度を回る衛星を使って通信網を構築した衛星通信サービス。詳しくはこちらを参照

これは、世界中のメディアが開戦後数日でウクライナはロシアに降伏せざるを得ないという見方を明らかにしていた中で、その見方を完全に払しょくし、一年半以上も善戦をしているきっかけを作ったのが彼の当初のスターリンクの無償提供という「決断」だったという事実を明らかにしているということです。

おそらく、当時の情勢の中でそのような思い切った決断をできたのは、西側の政治家ではほとんどいなかったはずですし、ましてや彼は民間企業の経営者の立場でこの決断をしたわけです。

②21:13あたりの

「ところが、昨年9月にウクライナ軍がスターリンクを利用してドローンでクリミア半島のロシア艦隊を沈めようとした時、マスクはこれを真珠湾攻撃と同じと考え、第三次世界大戦につながりかねないとして、ウクライナ軍にスターリンクを使用させないという決断をしたのです。これは世界が注目する戦争の行く末が一人の民間人の決断によって左右されることを意味したのです。」

そしてこれは、そのような決断によってウクライナが反転攻勢に出ることを可能にしたにもかかわらず、ウクライナが「防御」ではなく「攻撃」をロシアに仕掛けることによる世界全体への影響を考慮して、自ら提供を決めたシステムの遮断を決定するということは、提供の判断よりもずっと難しい判断を瞬時にしてしまったことを明らかにしています。

このような彼の「予測不可能性」と「決断力」の共生は「矛盾」ではなく、実は「逆説」なのだと理解することができました。

 

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