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トラオ 不随の病院王

2021年4月18日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

前回は、日韓をまたにかけ、その両方に巨大企業を築いた伝説の企業経営者である重光武雄氏の生涯を追った「ロッテを創った男」をご紹介しましたが、今回は一代で日本一の病院帝国を作り上げた伝説の経営者である徳洲会病院グループ創設者の徳田虎雄氏について書かれた「トラオ」をご紹介したいと思います。

どちらも一代で圧倒的な経済的成功を収めながら、人生の後半にて大変厳しい時間を経験しなければならなかったことで共通しています。

具体的には、前者の重光氏は後継者争いの果てに自らも犯罪者の烙印を押されながら亡くなり、後者の徳田氏はALS(筋委縮性側索硬化症)という身体を動かす神経系が壊れ、前身の筋肉が縮んでいく難病を患いながら、長男の衆院選挙をめぐる公職選挙法違反容疑で家族が逮捕され、自身も強制捜査を受けるなどしながら、今現在もその病気との非常に厳しい闘いを強いられています。

彼の人生を概観するために以下に本書から印象的な記述をいくつか引用していきたいと思います。

まず最初に、徳田氏が一代で日本一の病院帝国を築くことができたその秘密を垣間見ることができる著者と氏とのやり取りです。

ALS(筋委縮性側索硬化症)という病気は前述したように、非常に恐ろしい病気でこの病気にかかった人の生きる希望すら奪ってしまうことから、「安楽死」の議論の発端になることで有名です。

そのような病気と闘っている最中の彼がプラスティックの文字盤に自らの眼球の動きで次のように著者に対して語り、そして笑いかけたとと言います。

「これからが人生の勝負だと思っております。発展途上国には病院があれば助かる人もたくさんいるはずです。世界中に患者のための病院を創る、そのために与えられた病気だと思い、感謝しております。そうでなければ、今頃はもう交通事故や脳卒中で死んでいたかもしれませんから」

常人には到底たどり着けないであろう「信念」をもって生きる人の強さを感じさせられるわけですが、彼がそれほどまでにこだわる「世界中に患者のための病院を創る」という信念はどこから来たのか、そのことについて彼自身が語った内容です。

「3歳になる弟がいたのですが、その子が病気をした。夜中に嘔吐して苦しみ気を失っていました。びっくりして医院に医者を呼びに行ったのですが、どう頼んでも来てくれない。反対側の村に走って別の医者に頼んだけれどやはり来てくれない。医者がやっと来てくれたのは翌日昼過ぎで、弟はもう白目をむいたまま死んでいました。その形相が忘れられない。医療を受けられない恐怖や悲しみは、私の人生に決定的な影響を与えた。弟の死がなかったら僕は医者にならなかった」

しかし、当時本土と比べて圧倒的に貧しかった奄美群島徳之島の中でも特に貧しかった彼の家の経済は、彼が医者になることができる様な状況ではありませんでした。

しかし、彼は驚異的な猛勉強をし、また父もなけなしの田畑を切り売りしてまで彼の進学を支え、二浪の末、大阪大学の医学部を卒業し医師になることができました。

その後、彼は自分自身に生命保険をかけ、銀行に返済できなければ自殺して保険金で返済するという約束をすることで最初の病院の建設費を賄いました。

それを皮切りに、次々と全国各地に大規模病院を建設し、民間病院のチェーン展開をし続けていくわけですが、その度に地元の開業医の団体である医師会と激しい対立をしていくことになります。

彼の勢いを身近で見てきた人に取材をした著者は次のように表現しています。

「目的を定めたのなら、そこに向けて一心不乱に突進していく。自分が正しいと思う目的達成のためには、馬鹿げたことを大真面目に考え、あらゆる手段を行使する。彼にとっては、信号機は『黄色は気にせず進め、赤は気を付けて進め』だった。」

その目的の達成のための敵は、日本医師会であり、日本の制度自体であったため、最終的には政治というドロドロの世界に足を踏み入れていくことになるわけで、そのことが彼のイメージを「いかがわしい」もののように世の中に映してしまうことにもつながりました。

しかし、彼が、自分自身が世の中にどう映るかどうかなどを気にするような人間ならば、到底そこまでの信念を持つには至らなかったと思います。

今回のコロナ禍における医療崩壊の原因の一つとして、「民間病院」のコロナ患者受け入れ拒否が問題視(こちらの記事を参照)されていますが、徳洲会病院グループのサイトを確認すると、その精神は今も確実に維持されていると思いますし、その「いかがわしい」イメージとは全くことなる彼の信念の次元の高さを垣間見ることができます。

長い間、徳洲会グループを敵視してきた日本医師会はこの事実をどうとらえるのかに、私は今、非常に強い興味があります。

 

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