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愛の自転車

2021年4月1日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

先日、「『多様性』という矛盾」という記事を書き、多様性と差別というテーマについて私の考えをお伝えしたばかりでした。

そんなタイミングで、まさにその「多様性と差別」というテーマの王道ともいえるインドのカースト制度に関係する「愛の自転車」という一冊の本を読みましたのでご紹介します。

本書は、カーストの最下層である「不可触民」出身の男が旅行でインドを訪れたスウェーデン人の女子大生と恋に落ち、その後帰国した彼女を彼以外世界中の誰もが不可能だと思われる物理的、内政的、外交的ハードルを乗り越えながら追いかけ、その運命を切り開く「真実の物語」です。

現在二人は70歳近くであり今も健在だと言います。

これは、「愛」は「差別」を乗り越えさせ「多様性」を実現するということを証明した二人の物語であり、「愛」を「悪意のなさ」だと言い換えれば、先日の「『多様性』という矛盾」における私の意見とこの壮大な「真実の物語」が見事にシンクロするのではないかと思い至りました。

もちろん、この物語の主人公であるPKが経験せざるを得なかった物理的、内政的、外交的ハードルは、先日の記事で取り上げたような日本における「多様性と差別」の問題と比較にならないほど高く、そして複雑なものであることが本書の以下のような表現からも分かります。

「PKはインドの『不可触民』である。現在は『ダリッド』と呼ばれている存在自体がけがれであり、間違って影に触れただけでも川に飛び込み身体を洗わなければならないくらいけがれた存在とされてきた。小学校に行っても教室にすら入れてもらえない。女の子から好意を寄せられたこともあったが、いざ身分を明かすと相手の父親に家から放り出される。インドにはそんな未来の見えないダリッドが今も二億人いる。」

そこまで明確に差別の対象となってしまうと、次のように、もはや何が何だか分からないレベルで現実と向き合わなければならなくなるようです。

「かつてインドはイギリスの植民地だった。ところが一家の全員が大英帝国の大ファンである。彼らがブリティッシュを愛してやまない理由はいくつもあるが、うち一つは間違いなく『近代文明をもたらしてくれた』ことだ。ブリティッシュのおかげでインドは差別が少なくなり、昔よりも野蛮ではなくなったからだ。」

本来であれば、インド人である彼は、元征服者であるブリティッシュを忌み嫌うはずが、母国の「差別」のシステムがあまりにひどすぎたため、もやは征服者が解放者に見えてしまうということのようです。

これほどまでに彼が乗り越えなければならなかった祖国で生きていくためのハードルは高かったことになります。

このように、本書は、今でもインドに残る壮絶な差別システムへの理解を深めてくれる「社会学の資料」としても非常に興味深い一方で、あまりに高いハードルを乗り越えた末にの永遠の愛を描く「ラブストーリー」としても素晴らしい一冊です。

その「愛(思いやり)」の重要さに言及した一節を引用します。

「PKはカーストを癌のような深刻な病気であり、差別は表面的な現象でしかないと考えている。我々は症状ではなく病原(問題の根源)に注目して対処しなければならないのである。そのために有効な薬となるのが愛であり思いやりである。」

インドの憲法でカーストを否定しても、また日本の昔からある日本語を「差別語」として排除したとしても、そこに「愛(思いやり)」がなければ解決にはつながらない。

一方で、「愛(思いやり)」さえあれば、どんなに絶望的な現実をも乗り越えられる。

このことをこの物語は証明しているように思います。

 

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