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聖書がわかれば世界が見える

2024年1月28日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

昨年10月に起こったパレスチナのイスラム組織ハマスによるイスラエルに対する大規模な攻撃とその報復としてのイスラエルによるガザ攻撃が収まらず、ロシアのウクライナ侵攻のニュースがかき消されてしまっているように感じられる昨今ですが、なぜイスラム勢力とユダヤ教勢力はここまで憎みあうのか、私たち日本人にはなかなか理解ができません。

それは私たち日本人が世界の文脈、特に宗教に関わる基本知識を持っていないからだとされます。

このことについては、言語の背景にある「文脈」の理解という意味で、「聖書に関する理解」が必要だという記事をすでにいくつか書きましたが、今回は、国際関係の背景にある「文脈」を理解するという目的に特化して、再度、「聖書」について学び直そうと思いました。

そこで読んでみたのが池上彰さんの「聖書がわかれば世界が見える」です。

私は中学高校とカトリックのミッションスクールで学んだので、多少は聖書に触れたことはありますが、その内容は非常に分かりにくく、いったい何を表しているのかほとんど分からずに卒業してしまいました。

このようにとっつきにくい「聖書」なのですが、本書の著者はあの池上さんだけあって、本当に分かりやすく解説がなされていました。

以下に、せっかくの分かりやすい池上解説を台無しにしないように注意しながらできるだけ短くまとめてみたいと思います。

まず基本として押さえておきたいことは、ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教が信仰するのは同じ神だということです。その一方で、それぞれが聖典としているものには違いがあります。

この三つの宗教の関係をそれぞれが何をもって聖典に位置付けているかによってまとめてみます。

まずはユダヤ教から。

ユダヤ教にとっての聖典はいわゆる旧約聖書だけです。

そもそも、ユダヤ人というのは人種的な分類ではなく、「ユダヤ教徒の母から生まれた人」あるいは「ユダヤ教に改宗した人」を指す言葉です。ですから当然ですが、ユダヤ人には白人もいれば黄色人種も黒人もいます。

彼らは、この旧約聖書によって神と契約をしたとして、自分たちだけが救われるという「選民思想」を持っています。

続いてキリスト教について。

もともとユダヤ教徒だったイエスが腐敗したユダヤ教を改革すべく救世主としてその勢力を拡大する中で、ユダヤ教の指導者の妬みを買って処刑されるのですが、三日後に復活して信者たちの前に現れて教えを説いた後、天に上ります。その後、弟子たちがイエスの教えを伝えていったのがキリスト教です。

そのため、ユダヤ教が聖典としているものを「旧約聖書」として扱い、イエスの言行録などを中心に編纂したものを「新約聖書」として、どちらも大切な聖典としています。なお、旧約聖書では救われるのはユダヤ人だけだということになっていますが、新約聖書ではイエスを信じる者はユダヤ人だけでなくすべての人が救われるとされています。

ですから、ユダヤ人(教徒)にとっては、自分たちが唯一の聖典としているものを勝手に「前巻」と位置づけ、新たに「新約聖書」を「新巻」として聖典に加えるなどというキリスト教徒の行いは、実に許せない振る舞いだと考えています。

このことが「選民思想」と言われる所以で、だからこそユダヤ教ではなくキリスト教が世界宗教になりえたと考えられます。

最後に、イスラム教について。

イスラム教は、神がユダヤ教徒に「旧約聖書」を与えたが、ユダヤ教徒が神の言いつけを守らなかったので、イエスを通じて新たに「新約聖書」を与え、しかしキリスト教徒もまた神の言いつけを守らなかったので、最後にムハンマドを預言者として神の言葉を伝えたとする立場です。

そして、その神の言葉を編纂したものがイスラム教の聖典である「コーラン」です。

続いて、この三つの宗教の関係を聖書の中に出てくる登場人物の関係によってまとめてみます。

旧約聖書の「創世記」にあるアダムとイブが神の言いつけを破って「知恵の実」を食べたことでエデンの園から追放された話は、私たち日本人にもなじみがありますが、その後、二人の間にカインとアベルの二人の息子が生まれます。

兄のカインは農業に従事し、その成果物としての農産物を神に捧げ、アベルは羊飼いとなり、神に羊を捧げるのですが、神はカインの捧げものには目もくれなかったため、カインは嫉妬のあまりアベルを殺してしまいます。

激怒した神はカインをエデンの東の地に追放しますが、そこでカインは結婚して子供をもうけます。

また一方で、アダムは130歳の時にセトという息子をもうけ、そのセトも105歳で息子をもうけます。

つまり、アダムとイブの子孫は、カインの家系とセトの家系に分かれて続いていき、セトの家系のほうにあの箱舟の建造で有名なノアが生まれます。

そして、神は人間の世界に悪がはびこりすぎたことに激怒し、信仰に篤かったノアの一族とあらゆる動物の雄と雌一対ずつ以外、全ての生き物を絶滅させます。

その後、ノアの子孫たちは繁栄しますが、「天まで届く塔を建てよう」という不遜な行動に出ます。そうです、あの有名なバベルの塔です。これについては、以前のブログで詳細しているので、こちらをご参照ください。

やがて、神はアブラハムとの間で、カナンの全ての土地をアブラハムとその子孫に与え、彼らの神となるという契約を結びます。

このカナンの地というのが今のパレスチナであり、イスラエルです。

アブラハムにはサラという妻がいますが、なかなか子供ができなかったので、サラの勧めに従い女奴隷のハガルと結ばれ、イシュマエルが生まれ、彼の子孫がアラブ人になったとされています。

一方、イシュマエルが生まれた後、今度は妻であるサラも妊娠し、イサクが生まれ、彼の子孫がユダヤ人になったとされています。

このことから、この三つの宗教は「アブラハムの宗教」と呼ばれています。

かなり長くなってしまいましたが、このような流れを把握すると今のパレスチナ問題の根本が理解できると思います。

「なぜイスラム勢力とユダヤ教勢力はここまで憎みあうのか」

それは、この三つの宗教が「アブラハムの宗教」と呼ばれ、文字通り兄弟のような関係にあるからだということが言えるのではないでしょうか。(ことパレスチナ問題については、この一般的な宗教問題に加えて個別の原因もありますのでこちらをご参照ください。)

現代においても、赤の他人同士よりも兄弟の間での確執のほうが始末が悪いということはよくあることです。

それが、聖書の時代から延々と続いているのですから、それは容易には解決できないはずです。

 

(付録)

聖書由来の名前とその英語名一覧

・アブラハム:本記事内のアブラハム (英語名エイブラハム)

・アンデレ:12使徒の一人でペテロの弟(英語名アンドリュー)

・イサク:本記事内のアブラハムの息子(英語名アイザック)

・エリサベト:洗礼者ヨハネの母(英語名エリザベス)

・ダビデ:ゴリアテとの勝負に勝ったイスラエルの英雄(英語名デイヴィッド)

・トマス:12使徒の一人(英語名トーマス)

・パウロ(サウル):原始キリスト教の伝道者 新約聖書の記者の一人(ポール)

・バルトロマイ:12使徒の一人(英語名バーソロミュー)

・ペテロ(シモン):12使徒の一人でリーダー的存在(英語名ピーター)

・マタイ:12使徒の一人 新約聖書の記者の一人(英語名:マシュー)

・マリア:聖母マリア、マグダラのマリア、べタニアのマリア(英語名メアリー)

・ミカエル:聖書を代表する天使(英語名マイケル)

・ヤコブ:イサクの息子(英語名ジェームズもしくはジェイコブ)

・ヨセフ:イエスの養父(英語名ジョゼフ)

・ヨナタン:初代イスラエル王サウルの息子(英語名ジョナサン)

・ヨハネ:イエスの洗礼をしたヨハネ、12使徒の一人 新約聖書の記者の一人(英語名ジョン)

・マルコ:新約聖書の記者の一人(英語名マーク)

・ルカ:新約聖書の記者の一人(英語名ルーク)

 

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