日本人と英語

slowとslowlyの謎

2021年7月19日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「英文法の『なぜ』2」からテーマをいただいて書いていますが、第四回目の今回のテーマは「副詞の形」についてです。

私が主宰する「文法講座」においては、何よりも「文型」を重視し、その文型の構成要素やそれらを修飾する単語の品詞をこれでもかというくらいに大切にします。

その中で、「副詞」という品詞は、数ある品詞の中でも文型の構成要素である「名詞」「動詞」「形容詞」に次いで重視します。

私はそれらを重視するとともに、品詞の重要性のランキングを1位「名詞」、2位「動詞」、3位「形容詞」、4位「副詞」という具合に明確化しています。

この4位の「副詞」ですが、「名詞」「動詞」「形容詞」に比べるとその「形」が原形の状態でも一定しておらず、受講者をしばしば困らせることになります。

というのも、「副詞」、すなわち動詞(のみならず形容詞、副詞自身も)を修飾する語は、基本的には「形容詞」に「ly」をつけ、例えば「slowly」のような形で作られるのですが、形容詞と同じ「slow」という形にも「ゆっくり」という意味をもたせ副詞として認められるものが出てくるからです。

本書には見事にこの謎について言及していましたので、以下に該当部分を引用します。

「この謎の手がかりは古英語の形容詞の格変化にあります。古英語には形容詞にも主格、対格、属格、与格という格がありました。そしてもう一つ『具格(instrumental)』という格がありました。これは手段・方法を表す格で、『・・・で』というほどの意味を表しました。語尾はeでした。現代英語のslowの古英語はslawです。この具格はslaweで、これは『遅きをもって』というその原義から『ゆっくりと』という意味で使われました。その後、屈折語尾が消失していく中で、この語尾のeも落ち、中英語では現代英語と同じslowという形になりました。これが現代英語の副詞slowの由来です。そして、もう一つ古英語には副詞を作る方法がありました。それは『・・・のように』という意味の接尾辞liceを形容詞に付ける方法です。古英語slawは具格slaweだけでなく、slawliceという形でも副詞に使いました。その後、このliceは発音が弱化し、lyと形を変えました。これが現代英語の副詞語尾lyです。結局、現代英語には副詞にslowとslowlyという二つの形が残ることになりました。これはslowという非常に身近な語で頻繁に使用されたため真っ先にこのようになったわけですが、この意識は他の形容詞にも広がり、形容詞の中にはそのままの形で副詞的に使うようになったものがいくつも出てきました。具体的には、『cleanとcleanly』 『deepとdeeply』 『direct とdirectly』 『fine とfinely』 『free とfreely』 『great とgreatly』 『sure とsurely』 『tight とtightly』 『wide とwidely』などです。」

冒頭で私は文法講座において、品詞の重要性のランキングをつけていると言いましたが、この文章を読むと「副詞」があくまでも「形容詞」から派生したものであることがよく分かり、3位を「形容詞」4位を「副詞」としたことが、私の勝手な独断と偏見によるランキングでは決してないことがお分かりいただけると思います。

また、最後の「clean」から「wide」の実例を見ると、確かに「非常に身近で頻繁に使用される」ものばかりであることから、言語は身体感覚と密接な形で変化していくものなのだということもお分かりいただけたのではないでしょうか。

 

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