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ワイズカンパニー

2021年1月13日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

今回はかなり分厚い本をご紹介します。

一橋大学の野中郁次郎名誉教授と現在ハーバード大学ビジネススクール教授で同じく一橋大学名誉教授の竹内弘高先生というナレッジマネジメントの権威のお二人によって470ページにわたって書かれた「ワイズカンパニー」です。

このお二人は、共同で「知識創造企業」という著書を25年前に世界に向けて英語で出され、ナレッジマネジメントという学問分野を切り開いたと言われています。

そして、本書は一昨年その続編として同じく世界に向けて英語で出されたあと日本語に逆翻訳されたものです。

実は私は、大学に入学してからすぐに大学に行かない学生になってしまった(コンピューター室がどこにあるか分からずに卒業してしまったくらいに)のですが、卒論指導教官であった村田和彦先生のゼミ以外でたった一つだけ真面目に出ていた授業がありました。

それが、この竹内弘高先生の教養ゼミ(一年生に対してお試しで開講されるゼミで、スター教授であった竹内先生のゼミはものすごい倍率だったのですが、幸運にも抽選の結果はいることができました)です。

それは、竹内先生の授業がとても刺激的だったことに加え、当時青山のど真ん中にあった一戸建ての先生のご自宅にゼミ生を招待してくれたり、ゼミ後に大学近くのレストランで懇親会をやった後、その代金をすべて知らない間に払ってくれていたりと、とても大学の教授とは思えないスマートでゴージャスな身の振り方に当時まだ田舎の高校を出たばかりの私が先生に対して強い憧れを感じたからでした。

そして、そんな竹内先生の身の振り方が「アメリカ由来」かもしれないと勝手に思ったことが、私がアメリカ留学を決断するに至った理由の一つになりました。

私はそう思いだしたら、いてもたってもいられなくなり、年度の途中からアメリカに行くことを決めてしまい、竹内ゼミにお詫びの文と退ゼミ届を出すという、先生にも抽選に漏れた他の学生さんに対しても大変失礼でもったいないことをしてしまいました。

本当に申し訳ございませんでした。

前置きが長くなってしまいましたが、こんなことを思い出しながら本書を読みました。

前著である「知識創造企業」では、知識を「形式知」と「暗黙知」に分け、暗黙知はそれまで企業などにおいて組織的には無視されてきたことに注目し、この形式知と暗黙知の相互作用を組織的にマネージすることが必要であるというナレッジマネジメントの概念を切り開きました。

そして、続編である本書では、その「知識」を実践することまでをマネージすることにより、「知識」を「知恵」のレベルにまで高めることが必要だと説き、その実践に成功している企業の多くが日本企業であることに着目し、その事例を紹介しています。

私は、本書を読んで、企業を適切にマネージするには「知識」と「知恵」の違いを理解し、「知識」を行動によって「知恵」にまで高めた上で活用しないと大変なことになるということを改めて強く印象付けられました。

例えば、最近では、大塚家具の父娘の戦いはその典型例と言えるのではないでしょうか。

一流の都市銀行出身で「知識」という点で言えば圧倒的に有利であったはずの娘が、実践の経験に乏しく「知識」のレベルにとどまった段階で経営判断した結果、大塚家具という企業自体を自らの手から離さざるを得なくなってしまいました。

一方で、桐ダンス職人だった父を手伝いながら定時制の高校を卒業した後、大塚家具を一代で築いた父は、「知識」の量ではかなわないかもしれませんが、実践を繰り返すことで蓄積された「知恵」によって経営判断をすることで、娘に大部分の経営資源を奪われた後に新たに作った「匠大塚」を少なくとも現時点では立派に経営されています。

私は、この事例について考えたとき、以前にご紹介した「プロフェッショナルマネージャー」の記事における以下のような指摘を思い出しました。

「ビジネスが方程式のように固定的なものであるならばMBAの理論は完璧に機能するでしょうが、残念ながらビジネスは人生と同じで生ものであるため、その過信によって最も重要な柔軟さを失ってしまえば元も子もないというわけです。一方で、理論など全く持ってないがために現実に対してひたむきに対処する態度が身についている人は、最初からビジネスに対して柔軟に接することができ、決して逃げません。だから、意外にハイスクールも出てないような人が、MBA取得者が束になってかかっても敵わないような大経営者なるなんてことが結構頻繁に起こるのです。」

このナレッジマネジメントの重要性を認識すればするほど、竹内先生のゼミを途中リタイアしたことが悔やまれます。