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学者と政治家

2024年4月10日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

本日(2024年4月10日)、川勝平太静岡県知事が、自身の不適切発言への責任やリニア中央新幹線問題に区切りがついたことを理由としてその職を辞しました。

このブログでは、川勝平太氏について二度取り上げたことがあります。

一度目は10年以上前の2013年、富士山が世界文化遺産に登録されることが決まった時の英語のスピーチのすばらしさについて取り上げました。その記事の中での私の彼に対する評価は以下のようなものです。

「彼は静岡県出身ではなく、京都府出身のいわゆる落下傘知事です。しかし、その時の会話で彼の静岡に対する愛はただものではないということがわかりました。私は、四六時中、英語教育について考えています。彼は、同じように四六時中、静岡県人の誰よりも静岡県のことを考えているような気がします。私はよく、営業の場などで、自分の英語教育に関する話に夢中になって自分だけが話してしまって、営業ではなく独演会のようになってしまうことがあります。そのたびに、またやってしまった~と思うのですが、しかし、私の英語教育に対する考え方についてはいつも理解をしていただけていると思っています。それと同じような川勝知事の映像がこちらです。海外の番組に出演して、これぐらい、静岡のことだけを話す(しかもほぼ一方的に)ことのできる人は彼くらいしかいないと思います。」

そして二度目は昨年(2023年)になりますが、「静岡ってなんか最近変じゃない?」という記事の中で、今回の辞任の原因の一つにも挙げられているリニア中央新幹線問題に言及したものです。その記事の中での私の評価は以下のようなものです。

「そもそもこの工事は、2014年に当時の太田昭宏国土交通相がJRが申請した工事実施計画を認可し、2027年の開業を目指して正式に動き出している総事業費5兆円のプロジェクトなのです。ですので、この問題の本質は環境保護云々ではなく、2014年時点でも静岡県知事であった川勝平太氏が、そのタイミングでは何ら反対の意思を示さなかったのにもかかわらず、10年近くたちその他の工区ですでに着工されている2020年の段階になって『静岡工区での着工は認められません』と当時のJR東海の社長に通達し、着工を阻んでいることにあります。もし、本当に環境問題のことを真剣に考えての決断であるならば、当然プロジェクト全体にストップをかけることを前提に2014年の着工前のタイミングでそうするべきですし、今このタイミングで静岡だけストップしたところで、全体をどうすることもできず、大きな損失と開業の大幅な遅れという負担が全国民にのしかかるだけです。」

同じ人間に対する評価が、10年という時へ経て全く正反対のものとなってしまっており、その評価のぶれ方に私自身驚きを通り越して、もはや恥ずかしくなってしまうほどです。

そこで、一静岡県民として彼の本質をもう一度見つめ直すために、1997年発刊のかなり古い本にはなりますが、歴史・経済学者として書かれた「文明の海洋史観」という本をこの彼が辞職を決めたこのタイミングで読んでみることにしました。

読後の感想は、控えめに言って「難しすぎる」でした。

世間が一般的に常識として受け入れている考え方に対抗する「新しい歴史像」として鎖国政策を前提としていた近世江戸社会をグローバルな観点から見直すことを提案していて、その議論は彼の学者としての広く深い知識に裏打ちされたものであることは事実だと思うのですが、30%くらいしか理解できずに途中で諦めてしまったというのが正直なところです。

これなどは、唐突に「リニア中央新幹線」を問題化することで日本全体を敵に回した上に、最終的には静岡県民を置いてけぼりにしてしまったことと重なって見えてしまいました。

「常識」との間にそれ程大きなギャップがある提案を一般的な人々に理解させることは、本書の中で展開するような学識豊かな方のみを前提とする「難しすぎる」主張では到底不可能です。

その意味で、私のこの読後感こそが、静岡県知事という仕事と彼の人間としての本質のミスマッチを物語っているのではないでしょうか。

つまり、彼は「すぐれた学者」ではあっても、「頼りがいのある政治家」ではなかったということなのだと思います。

5月にも行われるとみられる県知事選挙では、どうしたら候補者のうちの誰が後者であるかを有権者として見抜くことができるのかを私たち静岡県民一人一人が真剣に考える必要があると思います。