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なぜ大型家畜は牛・豚・山羊・羊・馬だけなのか

2021年8月29日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

以前ご紹介した人類の至宝と呼ばれる「銃・病原菌・鉄」よりテーマをいただいて書いていますが、第四回目のテーマは、前回の「人類と病原菌」に関連してその関係の発端となった「家畜」についてです。

ヒトからヒトへの集団感染症を引き起こす「感染症」は、前回の記事にて「食料生産の開始」のタイミングで始まったということを学びましたが、その直接的な原因は動物の存在でした。

具体的には、群居性の野生動物が家畜化されたときに、それらの動物がもっていた病原菌が変化したことで、人類の「病原菌」との戦いが本格的に始まったと言えます。

家畜化とは「食料あるいは労働のために動物を人間の管理下におくこと」ですが、当然ながらそのスタートは野生動物からということになります。

本書には、この家畜化、特に大型の哺乳類の家畜化に関して非常に興味深い説明があったので以下引用します。

「哺乳類で家畜化されているのはほんの数種類の陸生の大型草食類だけである。その中で地球規模で重要な存在となっているのは『牛・豚・山羊・羊・馬』の5種類のみだ。いや、これ以外にもゾウだっているだろうと思われるかもしれないが、それでは家畜化と飼育を混同している。家畜とは人間が自分たちの役に立つように飼育しながら食餌や交配をコントロールし、選抜的に繁殖させて野生の原種から作り出した動物のことであるから、人間は野生のゾウを飼いならしてはいるが家畜化したとは言えない。このように家畜の種類が限定されているのは家畜化の問題について考える上で非常に重要なポイントである。」

ではなぜ、数ある大型哺乳類の中でたった5種類だけしか人間は家畜化できなかったのでしょうか。

「これら5種類は人類史の早い時期、具体的には紀元前8000年から紀元前2500年までにほとんど家畜化されてしまっている。つまり、4500年前以降、人類は現代の科学技術をもってしても大型の哺乳類を一切家畜化できていないことになる。その理由として①エサの問題 ②成長速度の問題 ③繁殖上の問題 ④気性の問題 ⑤パニックを起こすかどうかの問題 ⑥独立心の問題があげられる。」

以下一つずつまとめてみたいと思います。

①エサの問題

その動物を人間が利用することによる便益と食べたもののコストの問題です。つまり、肉食動物はこれでほとんど対象外になってしまいます。

②成長速度の問題

これも①と同じコストの問題です。先ほどのゾウは一人前の大きさになるまで15年も待たなければならないため、飼育するのではなく野生の像を捕まえて飼いならしたほうが安上がりだということです。

③繁殖上の問題

これは人前でも全くお構いなしに繁殖行動をとることができる動物が限定されているということです。パンダの妊娠があそこまで話題になることでその難しさが分かると思います。

④気性の問題

シマウマが家畜化された馬と姿かたちがほとんど変わらないのに、どうしても家畜化できない理由がこれだそうです。それ以外にも肉付きがよい割に雑食性(狂暴)であるクマもなかなか難しいということになるわけです。

⑤パニックを起こすかどうかの問題

牛や豚の飼育環境を見れば、よくあんな狭い中で生きていられるなと同情をしてしまいますが、その同情は的外れなものではなく、多くの動物がそのような環境ではパニックを起こしてショック死してしまうということです。

⑥独立心の問題

独立心が旺盛な動物は群れをつくらず自分だけの縄張りを持ってしまうので ⑤同様、飼育には適さないということです。猫は犬と違って家畜になりにくいことを私たちは何となく理解できます。

私たちが当たり前に存在していると思っていた家畜という存在をこのように分析的に説明してくれる本書の指摘は非常に興味深いものでした。

そして、もう一つ特筆すべきは、これらの家畜となり得る条件を満たす野生動物のほとんどが「ユーラシア大陸」に偏在していて、その他の大陸には非常に限定されていたという事実です。

実はこの事実が、本書の大テーマにつながっていくことになるのですが、それについては次回見てみたいと思います。

 

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