代表ブログ

繁栄~明日を切り開くための人類10万年史~(上・下)

2024年3月12日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

少し前に「人体600万年史(上・下)」という大作を読破して、現生人類に至る前の壮大な歴史を学ぶことができたのですが、その歴史のクライマックスというのが、現生人類が「おしゃべりの才能」すなわち言語を手に入れることによって、飛躍的な「文化的進化」を遂げることができた点だと確認しました。

そうなると、およそ10万年前に(初歩的な)言語を手に入れたのちに「圧倒的に独創的な存在」となり、ここ数千年において「文化的進化」を指数関数的に遂げるクライマックスの中のクライマックスについても詳しく見てみたいという欲望にかられ、またもや大作を読むことにしました。

それが、「繁栄~明日を切り開くための人類10万年史~(上・下)」です。

著者のマット・リドレー氏は、イギリスの貴族(序列は四番目の子爵。ちなみに、上から公爵 duke・侯爵 marquess・伯爵 earl・子爵 viscount・男爵 baronとなり基本的に世襲制となっている。ただし1958年より一代貴族法が成立し、世襲のない一代貴族もいるがそのすべては男爵となる。)にして、「動物学」の博士号を持つ科学・経済ジャーナリストです。

タイトル「繁栄」からして明らかですが、本書で印象的なのは、現生人類の「文化的進化」をものすごくヴィヴィット(生々しく)に体感的に理解できるような表現に満ちていることです。

以下に、そのことが分かる部分をいくつか引用します。

「左は50万年前の中石器時代のハンドアックスで、右は現代のコードレスマウスだ。どちらも人間の手の中にぴったりと納まるようデザインされており、もちろん両方とも人間が作ってものだ。だが、一方は単一の素材からなり、単一の製作者の技能を反映している。もう一方は多くの素材が複雑に組み合わさり、入り組んだ内部設計がなされており、数多くの知識の系統を反映している。両者の違いは今日の人間の経験が50万年前の人間の経験とはかけ離れていることを示している。前者は一人の人間が作ったのに対して、後者は何百、ことによると何百万もの人間が製作に関わっている、これこそ集団的知性と呼ぶものだ。マウスの作り方をすべて把握している人はいない。工場で組み立てた人はプラスティックの原料となった石油の掘削の仕方を知らないし、それを知っている人は組み立て方を知らない。現生人類の治世は、ほかのどんな動物にも起きなかった形で集団的・累積的になったのだ。」

ここで重要なのが、現生人類が「集団的・累積的」に学習することを「交換(分業)」という技を使って実現したという事実です。

それは、チンパンジーが毛づくろいをお互いにし合う「互恵的交換」とは違い、「物々交換」、すなわちお互いが違う物を交換することで、自分では作り方も見つけ方も知らない物へのアクセスを確保することができるようになることです。

私たち現生人類の歴史は、この10万年前に獲得した「物々交換」と「おしゃべり」によって爆発的な繁栄へとつながるわけですが、そのことがどれほど大きなインパクトを人類全体にもたらしたかについての部分を以下に引用します。

「人工照明は必需品とぜいたく品の境界に位置するのだが、同じ量の照明をするのに1300年のイングランドでは今日の2万倍の費用が掛かった。これは途方もない差だが、労働に換算すると変化はさらに劇的で、平均的な賃金で一時間働いたときにどれだけの照明が手に入るか考えるとよい。紀元前1750年には24ルーメン時(ごま油ランプ)だったものが、1800年には186ルーメン時(獣脂ロウソク)、1880年には4,400ルーメン時(石油ランプ)、1950年には53万1,000ルーメン時(白熱電球)、今日では840万ルーメン時(コンパクト蛍光灯)に増えた。あるいは、こう言っていい。今日、一時間働けば、読書用の照明が300日分賄えるが、1800年に一時間働いたときに得る賃金では10分しかもたなかった。逆に、読書用の照明一時間分を賄うのには今日、0.5秒働けばいい。1950年だと8秒、1880年だと15分、1800年だと6時間以上働かなければならなかった。一時間の照明を得るための労働時間は4万3000分の1に減った。実に4万3000倍の効率化だ。光以外の時間の短縮度合いでも、エネルギーは50倍、交通手段は250倍だ。」

著者は本書の中で自分自身のことを「合理的な楽観主義者」だと評価していますが、上記のような人類の進歩に関する驚くべき「証拠」を生々しく提示されると、人類の将来についてかなり悲観的だった私も幾分かは前向きにとらえられるような気もしてきました。

 

◆この記事をチェックした方はこれらの記事もチェックしています◆