日本人と英語

スラブ人は自らを「奴隷」と呼んでいるわけではない

2023年11月5日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「教養の語源英単語」からテーマをいただいて書いていますが、第三回目のテーマは「スラブと奴隷の関係」です。

私は今まで、スラブ人の「スラブ」には英語の「slave(奴隷)」の意味があるという話を何度か聞いたことがありました。

しかし、当然ですがその度に、もしそんな意味があるのであれば、スラブ人はそのことについてどう受け止めているのかと気になっていろいろ調べてみたのですが、なかなか納得のいく回答は得られませんでした。

しかし、本書にはその答えにかなり肉薄する部分がありましたので以下引用します。

「北欧ヴァイキングの一派であるルーシ人は9世紀ころにバルト海を渡り、農耕民族で戦争を好まない先住民のスラブ人を容易に征服しながら、ノブゴロドにルーシの国を建てる。これがのちの18世紀ロマノフ朝ロシア帝国につながる。『ロシア』は『船のオールを漕ぐ人』が原義のルーシ人に由来する。彼らはノブゴロドを水路伝いに南下してドニエプル川の中流にキエフ・ルーシ広告を建国し、スラブ人と同化していった。その後13世紀ころにモンゴル帝国に滅ぼされ、約240年にわたってモンゴル人に間接統治される時代が続くが、ここが現在のウクライナ・ロシア・ベラルーシの原点となる。『スラブ人(the Slavs)』たちは奴隷として、東ローマ帝国などに売り飛ばされることになり、これが現代英語のslave(奴隷)やslavery(奴隷制度)の語源となる。ただ、もともと『スラブ( Slav)』の語源はスラブ祖語で『言語』や『人種』の意味で、現在のチェコ・ポーランド・クロアチア・スロベニア・ロシア・ウクライナブルガリアなどがスラブ人の子孫の国だ。」

この解説によって、少なくとも「スラブ」という言葉自体にはそのようなマイナスのイメージは全くないということが分かりました。

つまり、「スラブ」という言葉自体に奴隷という意味があるのではなく、「スラブ(言語・民族)」という誇り高い意味を持つ民族の名前が、たまたま過去の歴史の中で「奴隷」にさせられたばかりに他の人々によってその代名詞のように呼ばれてしまっただけということになります。

これって、中国のことを、昔の「秦」からとって英語でChina フランス語でChineと呼ばれ、またかつては日本もそれらに習って「支那」と呼んでいたが、大東亜戦争当時のいやな記憶を思い起させることになるので、China やChineとは呼ばれても、日本には「支那」と呼ばれたくないという中国の人々の気持ちに通じるところはないのだろうかと思えてきます。

ただ、もともと自らの民族名として誇りをもって自称する「スラブ」を、歴史における他人の悪意からそのような意味が付加されたことを理由に捨ててしまうなど、スラブ民族として許せることではないはずです。

スラブの人々が中国人の日本に対する感情と同じような、アメリカを含んだ西欧諸国の人々にだけは「スラブ人」とは言わせたくないと思っているのかどうかは分かりませんが、言葉というものはその原義以外にも歴史によって、それとは無関係の意味が加わってしまう可能性があるということだけは、理解しておくべきかと思います。