日本人と英語

不完全自動詞とは何か

2023年4月9日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「英文法の謎を解く(続・完結を含む三部作)」からテーマをいただいて書いていますが、第四回目のテーマは「不完全自動詞」です。

本書では「日本人のひどい英語」を非常に辛辣に批判する場面がいくつも出てくるのですが、その辛辣さが最高潮に達したのが、かつてコカ・コーラ社のTVコマーシャルのサウンドロゴで使用した「I feel coke.」という英語に対する批評です。

どれくらい辛辣かですが、さらっと引用しておきます。

「日本人が勝手に作って国内で流布させた、気色の悪い大間違いの英語退治をやることにする。日本のひどい英語の代表選手はやっぱり、かつてコカ・コーラが10年くらい流し続けた『I feel coke.』というバカ英語である。こんなものを作った日本人のコピーライターは学歴があろうがなかろうが、とにかくNYのタイムズスクエアのCokeの看板の前で100回この英文を口に出してみたらいい。こんな気持ちの悪い英文を作ってそれを何年もCMで流し続け、かつそのことをテンとして恥じなかったこの会社が私には信じられない。これは今思い起こしても断じて許せない犯罪的な日本人英語だ。もう一つのトンデモナイ日本人英語の王様であるカネボウの『For Beautiful Human Life』とともに筆誅を加える。」

英語の基礎がまったくできていない日本人に対して、アメリカを代表する企業の日本法人が、このような文法的に正しくない英語をさも本物の英語であるかのように何度も何度もすり込もうとするのはあまりにもマイナス影響が大きすぎるという著者の主張には、私も英語教育に携わる者として強く賛同する気持ちを持っています。 

ただ同時に、(状態動詞であるloveを現在分詞化してしまっているため文法的に誤りではないかという議論がある)マクドナルドの「I’m loving it.」は、もともとドイツの広告代理店が作った表現をグローバルで採用したという例もあるので、世の中に存在していない「新語」を作るというマーケティング手法としては一つの「創造行為」であり、許容してもよいのではないかとの気持ちもあり、ここまでコテンパンにしなくてもいいのではないかという気持ちもあります。

前置きが長くなりましたが今回は、この「 feel 」や「seem」「look」など「不完全自動詞」に分類される動詞に関して本書より該当部分を引用します。

「『不完全自動詞』とは、第二文型のSVCを作る動詞Vのことで、be動詞とそれ以外のseem, look, feel, become, appear, get, remain, keep, sound, prove, turn, smell, taste, grow, go, continueなどの動詞を指す。例えば、She looks pretty.『彼女はかわいく見える』という文を作る。ここで注意すべきはこの彼女を『かわいい』と思っているのは誰かということだ。この文の主語Sheではない。その答えは『私』である。すなわち『(彼女はかわいく見える)と私には分かる』ということなのだ。通常、動詞というのはその文の主語が『~する』という意味である。すなわち究極的には『do』という動詞に置き換わる。しかし、be動詞以外の『不完全自動詞』は特殊であって、『話者が~のように思う』というように究極的には『be動詞』(〇=〇というのも話者の判断という意味で)に代替されることが可能となる。これらの動詞は私には古生代・白亜紀に魚類が陸上に上がって爬虫類になる途中に取り残された両生類のような奇妙な集団に見える。(一部加筆修正)」

この両生類に例えるあたり著者のセンスを感じ、これら「不完全自動詞」の本質に対する理解を格段にしやすくしてくれています。

ただ、このように紹介した「不完全自動詞」ですが、実は私は文型を中心として講座に一本筋を通すことを何より重要視している観点から、動詞の分類としてはこの「不完全自動詞」を認めず、be動詞を含むこれらを「イコール動詞」として、「自動詞」「他動詞」に加えて第三の動詞として扱っています。

そのほうがSV SVO SVCという三大文型(骨格)の違いをしっかりと理解することができると考えるからです。

最後に、余談とはなりますが、著者が「I feel coke.」や「For Beautiful Human Life」なる表現をなぜここまで毛嫌いしたのか、その理由についても本書より引用しておきます。

「『I feel coke.』の(feelの後が名詞の)場合、feelは他動詞であって、それは不完全自動詞ではない。この場合のfeelは『手で触れて指で触って感じる、もしくは物体の表面を体の皮膚で感じる』というものである。つまり、一つの可能性は『缶の外側を手の指で触って感触を確かめている』、もう一つの可能性は『コーラを自分の体にぶっかけてその液体をベタベタと擦り付けて感じる』という意味である。また、『For Beautiful Human Life』を完全な英文とするならば『I am for beautiful human life.』ということで、この会社が言いたいのは『美しい人々の生活のために』ということだろうが、それならばせめてfor a beautiful human lifeにしてほしかった。なぜなら不定冠詞aがないと『とある(無冠詞)美しく着飾った(beautiful)人間のような形をした(物質名詞のhuman)生命体(life)の味方(I am for)です。』となってしまい、これで気色悪くなかったら一体どういう言語感覚をしているのだろうということになる。」

これなどは、日本人は「チキンを食べた」という意味で「I ate a chiken.」と何の悪気もなく言ってしまいますが、実は「お店で売っているような加工済の鶏肉」は当然不可算名詞の「chiken」であり、「 a chiken」は「生きたニワトリそのもの」を意味するわけですので、「I ate a chiken.」と聞いた英語話者は大変おぞましい光景を思い起こしてしまうわけで、このケースの全くの逆バージョンでしょう。

前回同様これなども、「見た目が単純な英文法ほど奥が深い」の典型例だと言えそうです。

 

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