日本人と英語

種類全体を表す「the」

2023年4月9日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「英文法の謎を解く(続・完結を含む三部作)」からテーマをいただいて書いていますが、第三回目のテーマは「話し手と聞き手のイメージ共有を意味しないthe」です。

日本語と英語の言語的距離を考えたときに、その距離が非常に離れていることを表す具体的な例としてこの「冠詞(不定冠詞aと定冠詞the)」が取り上げられることが多く、またその違いがまさにこの「「話し手と聞き手のイメージ共有」の有無であると一般には理解されていますので、このテーマはその常識を覆すある意味衝撃的なものだと思います。

では早速、本書の該当部分より大切な部分を引用したいと思います。

「『(一般的な)日本人はよく働く』という文を英語にしてみよう。答えは、『The Japanese work hard.』そこでまずこのthe から説明するとこの冠詞theは『特定のものを指すthe』ではない。これは『ある種類のもの全体を表すthe』と言って、したがって、workにsが付かないことからも分かる通り、このThe Japaneseは複数扱いされている。このtheは『日本人という人間たち全体』を指して、それを全体としてひとまとめしたときのtheなのである。これはtheの用法としては、かなり難しいものに入る。Japaneseという言葉は『日本人』と『日本語』という二つの意味があり、名詞としては単複同形であり、sをつけて複数形にするということはできない。複数形表現自体がそもそもないという単語である。このtheはJapaneseが『日本語』なのか『日本人』なのか区別をつけるためにそのしるしとしてつけられたのだと短絡させて考えてもよいだろう。これはJapanese People work hard.という風にpeopleを使ってもいい。この場合にはtheをつけてはいけない。これにtheをつけると『その日本人たちは』の意味になってしまう。複数形のあるAmericanで見てみる。『アメリカ人もよく働く』の答えは『Americans work hard,too.』となる。では、これにTheをつけてThe Americans work hardとしたらどうだろう。実はこれでも間違いではない。でもつけないほうが普通だ。いや、つけないほうがいいとされる。なぜならこの複数形のAmericansが『アメリカ国民全部』を表せるので、ここでは『種類全体のthe』はつけないほうがいい。」

ここでは、the をつけない複数形で種類全体を表すこととの対比をしていますが、私たちは複数形でなくても「種類全体のa」というのも以下のように当たり前のように使っています。

I insist that a dog is cuter than a cat.

というか、「とある、抽象的な、誰ということはない、或る」という意味を有している不定冠詞aはもともとそのようなものだと理解すべきです。

ただし、本書においては、理論的には「A Japanese works hard.」という文章を先ほどの「The Japanese work hard.」と同じ意味で使うことも可能ですが、このJapaneseのケースでは感覚的にどうもピッタリとこず、使ってもいいが使わないほうがいいという非常に微妙な解説にとどまっています。

著者自身も本の中で「なんだかごちゃごちゃ細かいことを言っている」という自覚を白状していますが、これなどは「見た目が単純な英文法ほど奥が深い」の典型例ではないでしょうか。

 

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