日本人と英語

何が正しくて何が誤った文法なのか

2021年7月25日 CATEGORY - 日本人と英語

前回まで、実に9回にわたって、書籍紹介ブログにてご紹介した「英文法の『なぜ』2」からテーマをいただいて書いてきましたが、いよいよ第10回目の今回が最終回です。

今まで、英文法を「単純化」という大きな流れとしての歴史の視点から見てきました。

つまり、その本質は「変化」であると見るべきかもしれません。

それなのに私たちは、第六回目の記事で見たように「三人称単数現在のs」があるかないかで「正解」「不正解」のいずれかを選択するなど、正誤判定の対象として「英文法」を見がちであったと言わざるを得ないと思います。

私たちはここまで本書に導かれ、その姿勢は少なくとも「合理的」な文法との付き合い方ではなかったと確認できたはずです。

そこで今回、最後のテーマとして「文法の『正しさ』」を取り上げ、以下に著者の考えを引用したいと思います。

「いまから150年ほど前にCommon Blunders Made in Speaking and Writing(話す時、書く時によく見られる誤り)という小冊子を発行したチャールズ・スミスは、その中で、『You don’t say so? Don’t you know? Don’t you see? You know. You see. 』などの表現を取り上げ、それらは意味のない(unmeaning)粗野な(vulgar)言い方であり避けるべきものであると書きました。今から見ると『どうしてこれが』と驚くものばかりです。いつの時代も話し言葉はだらしないとする考えがあるようです。また、『Come here.はCome hither.と言わなければならない。』なぜなら、副詞hereは『ここに』という場所を示すものであり、『ここへ』と方向を示すにはhither(=to or toward this place)を使うべきだという考えがあるからとも。確かに、副詞hereは『ここに』と場所を表すのが元来の意味でした。しかし、その後、come やgoなど移動を表す動詞とともに使って『ここへ』と方向を表す意味にも使われるようになりました。この意味は12世紀には表れているのですが、19世紀になっても、言葉の意味に厳密な人には目障りな使い方だったようです。人は言葉の変化になかなか頑迷です。『Where do you come from.はWhence do you come?と言わなければならない。』前置詞は名詞・代名詞を目的に取るものだから副詞whereをfromの目的語に使うことはできない。だからwhere・・・ fromとかfrom where・・・ではなくwhence(どこから)を使わなければならないとも。確かにwhereは副詞ですが、18世紀半ばには砕けた言い方でwhere・・・from/ where・・・ toという形が現れています。アメリカの辞書は割り切った考えをしていて、このwhereをwhat or which placeという意味の名詞としています。『since thenはsince that timeと言わなければならない』これはthenが副詞なので前置詞sinceの目的語に使うことはできないという考えです。しかし、実際にはthenはby/since/tillなどとともに用いる名詞としての用法が1330年頃に生まれています。私も高校生の頃、How far is it from here?という言い方に頭を悩ませました。どうして副詞のhereが前置詞の目的語になるのかという疑問です。このhereも元来は副詞ですが、from hereという言い方は19世紀半ばには現れています。これもアメリカの辞書は割り切って『ここ』という意味の名詞としています。」

さすがに、著者は言語学者だけあって、このように「文法の『正しさ』」をテーマとして取り上げつつも、最終的に自分自身の立場を、チャールズ・スミス側なのか、アメリカの辞書側なのかを明確にはしていません。

しかし、本書を読めば著者が少なくとも、英語の歴史が「単純化」という大きな流れであったことを認め、その本質は「変化」であることを前提に英文法と付き合っていることがよく分かります。

そして、英文法を「正誤」の対象とする姿勢から距離を置くべきだという信念をお持ちであることも感じられます。

そして私もその信念に大いに触発されたことを告白したいと思います。

最後に、著者に触発された結果、ずっと回答に困ってきた問題に対して今後どうするかの明確な方針を示してこの記事を終えたいと思います。

私の主宰する「文法講座」の現在完了形の授業の中で、現在完了の継続の文章として「10年前から英語をずっと勉強してきた。」という日本語を英語にするとき、「I have studied English since 10 years ago.は間違いだと学校で指摘されたのですが」という質問が結構な頻度であります。

今までは、確かに前置詞sinceのあとには名詞が来なければならないが、agoがついてしまったらそれは副詞句を構成してしまうので「誤り」という学校の指摘に理解を示してきました。

しかし、これからは「10 years ago」を「10年前」という名詞であると君が認識しているのであれば、それは「正しい」と思うべきだ、逆にそれが不可能というのであれば、「10年前から英語をずっと勉強してきた。」という表現をするにはどうしたらいいのかを学校の先生に聞いてみたらどうかと答えるようにします。

 

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