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限りある時間の使い方

2022年12月4日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

本を選ぶときに何らかの問題意識をもってその本を購入したのだけれど、その内容がその問題意識とは全く異なるものだったという経験はありますか?

もしあるとすれば、当然ですが「騙された!金返せ!」という気持ちにさせられるのがほとんどだと思いますが、今回ご紹介する「限りある時間の使い方」にはそれとは全く逆で非常に満足度の高い読後感を与えてくれました。

というもの、本書は一見、タイトルからすると「タイムマネージメント」に関する「スキル本」と見せかけて、実際には「時間の存在」に関する重厚な「哲学本」でした。

「哲学とは何か」については以前のブログ「100の思考実験」で次のような定義を確認しました。

「哲学とは、そもそも古代ギリシアでは学問一般をさしていたが、近代の諸科学文化によって、諸科学の基礎づけを目指す学問、世界、人生の根本原理を追求する学問」

本書は、上記の定義の中で言えば、「時間」を通して「人生の根本原理を追求」しているのですが、その中で「時間」を「効率化」の対象として考えること自体が誤りだと主張しています。

なぜなら「時間の効率化」という概念には「罠」が潜んでいるからです。

その「罠」には、効率化を進めれば進めるほど「どんどん仕事は増えていく」という量的な面と「重要でない仕事のみ片付き、いつまでたっても重要なものは方付かない」という質的な面があると著者は言います。

そのことを体感的に理解できるように、量的な面についての具体例として「メールの処理の効率を上げれば上げるほど、『この人はメールの返信が早い人だということで有名になり、みんな急ぎの用件をどんどん送ってくるようになる」、そして質的な面についての具体例として「タイムマネジメントを駆使して世界中のあらゆる秘境を訪れようとしても、一番行きたかった場所にはいつまでたってもたどり着けない」ことを挙げています。

このことは、メールに限らず、様々な分野でデジタル化が進んでほんの20年前と比べてあらゆることが「効率化」したはずなのに、「仕事が片付いて幸せ度合いが高まった」という感覚を掴むことができていない現代社会を改めて見返してみると確かに実感できることだと思います。

その上で、このような「効率化の罠」から逃れるためにすべきこととして著者が提案しているのが「選択肢を狭める」ことです。

以下、本書より該当部分を引用します。

「思い切って一つを選び無限に広がっていた可能性を封印する。手持ちのカードを多く残しておくよりも『これしかない』という状況の方が満足度が高まるのだ。ハーバード大学の社会心理学者ダニエル・ギルバートらは、数百人の被験者にポスターを選んでもらう実験を行った。いくつかのポスターの中から好きなポスターを選んで持ち帰ってもらう。参加者は2つのグループに分けられ、一方には『1か月以内に他のポスターと交換可能である』と伝え、もう一方には『これが最終決定であり、一度選んだポスターは決して交換できない』と伝えた。その後の両者の満足度を調べたところ、後者のグループの方がはるかにポスターを気に入っていることが分かった。もっといい選択ができるかもしれないという可能性を残されたグループよりも、後戻りできない選択をしたほうが、自分の選択に満足できたというわけだ。多数の選択肢を捨てるからこそ、選び取ったものに価値が生まれる。」

「デジタル化」や「タイムマネジメント」によってより多くの選択肢を得られることが「効率化」につながり、それこそが「価値の創出」につながっていると私たちは信じ切ってきたわけですが、実はそれは「人生の根本原理」からすると全く逆のことだったのかもしれません。

このように選択肢を狭めた結果、本当の価値につながるため残った選択肢に対して私たちはどのように向き合うべきかについて、著者はフランスの哲学者ボーヴォワールの次の言葉を引用しています。

「ある老人がワインを飲み、満ち足りた気分になる。そのことに価値がないというなら、生産も富もただの空虚な迷信に過ぎない。生産や富に意味があるのは、それが人に還元され、暮らしを楽しくしてくれる場合だけだ」

つまりは、私たちが最終的なゴールとして認識している「生産」や「富」は手段の一部にすぎず、最終的なゴールはあくまでも「満ち足りた気分」という人間の心の状態にあるということを忘れてはいけないということだと思います。

 

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