おすすめ書籍紹介

欠陥英和辞典の研究 #300

2023年4月19日 CATEGORY - おすすめ書籍紹介

【書籍名】 欠陥英和辞典の研究

【著者】  副島 隆彦

【出版社】 JICC出版局

【価格】  各¥981 + 税

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#299「英文法の謎を解く」が思いのほか興味深く、どんどん引き込まれる良書であったため、著者の過去の著作をもう少し読んでみたいと思ってネットで検索したところ、実はかつてこのブログにおいてご紹介したあの平泉・渡部「英語教育大論争 #35」に匹敵するような社会的インパクトを伴うものがあったことにお恥ずかしながらこのタイミングでようやく気づかされました。

本書は、著者が英語母国語話者との間で10年にも及ぶ議論を交わすことで、日本における英語関連出版の代表的存在である「研究社」の英和辞典の英文例文に多くの「間違い」や「不自然な表現」が存在しているとして、その欠陥を糾弾するために出版されたものです。

具体的には、「新英和中辞典第五版(1985)」「ライトハウス英和辞典(1984)」の2冊の中の全英文例文のうち5%は完全に間違いで、15%が不適切だとのことです。

#299に辛辣な表現が散見されることに少々驚きましたが、本書には「研究社」に対して「何の反省も謝罪も『中傷への抗議』もしてもらわなくてよい。ただ早々にこの欠陥辞書たちと一緒に消えてなくなってくれとお願いしたい。」というあまりに挑戦的な言葉が書かれており、これが彼のスタイルと妙に納得がいった次第です。

それでは以下に、本書より具体例として三つの例文をご紹介しましょう。

① × I have never gone to Australia.→ 〇 I have never been to Australia.(私はオーストラリアへ行ったことがない)

「この文は『ライトハウス』の注意書きでは『アメリカ口語表現』として示されているが、それはない。極めてインフォーマルな会話か、よほど低学歴の人々、あるいは日本人たちの間でしか通用しないものである。しかも、中学校依頼日本の英語教師はこの二つの表現は同じ意味では使えないということを理解させようと努力してきた。それだけの努力に対してさえ、この模範例文は混乱を助長するだけである。」

② × The police was unnable to get anything out of the woman.→ 〇 The police were unnable to get anything out of the woman.(警察はその女から何も聞き出せなかった)

「policeは文法学ではpeopleやfamilyなどと同類で『衆多名詞』と呼ばれ、次の動詞は複数形をとる。上の文は単なる誤植のケアレスミスであろうが、少なくとも辞書としては弁解の余地がない。信頼のおける知識を提供しなければならない出版物にとって校正作業は最重要な仕事であるべきだ。」

③ × a running nose→ 〇 a runny nose(鼻水の出ている鼻)

「a running noseでは『だらだらといつまでも垂れ流しの状態で出ている鼻』というような気持の悪い英語は汚らしくて使いようがない。正しくはrunnyだが、『ライトハウス』でrunnyを調べると、これが載っていない。この辞書がいよいよ使い物にならないことが良くわかる。『ジーニアス』のほうにはrunnyで『1.流れやすい、溶けた2.鼻水や涙の出る』とちゃんと出ている。」

私は、たとえ「日本語英語」であっても「使ってみる」ことが大切で、最初は正しくなくてもコミュニケーションを図っていく中で成長していくものであるとの考えから、少なくとも学習者自らが間違いを恐れずにそのような英文を作ることにむしろ賛成であり、学習段階における初期の「教科書」にはそのような表現が多少あったとしても、それは容認されるべきだとの立場をとってきました。

しかし、あらゆる学習段階において信頼性が最も重視されるべき「辞書」においてその20%が不適切というのは、著者でなくても糾弾されてしかるべきではないかと考えます。

ちなみに、私が中高生のころから愛用しているのは、私が尊敬する中学時代の恩師K先生が勧めてくれた大修館の「ジーニアス」なのですが、本書では研究社の「新英和中辞典」や「ライトハウス英和辞典」の比較対象として引用され、「例文がしっかりしており、なかなか大したものだ。この辞書編集に結集した小西友七、飯塚利昭、辻村厚の三氏の良心と才能に感心した。」と評価されており、関係ないのになんだか誇らしい気持ちにさせられました。(笑)

この「糾弾」に対する「研究社」の反応は次回「英語辞書大論争!#301」にてご紹介します。

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