代表ブログ

会社がなくなる!

2021年12月10日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

衝撃的なタイトルですが、このブログでも何度かご紹介している元伊藤忠商事のトップにして民間から初めての中国大使を務められた丹羽宇一郎氏の新刊「会社がなくなる!」を読みましたのでご紹介します。

この本を紹介するに至った一番の動機は、デイビッド・アトキンソン氏の「中小企業悪者論」への反論理由が明確に整理されていたからです。

以前、私はこのブログで彼の「国運の分岐点」をご紹介して、彼が「日本の生産性の低さ」の原因を「中小企業の多さ」を挙げられていることにどうしても納得できないと書きました。

「生産性革命」実現のために「中小企業をなくして大企業を増やす」という手法をとることがどうしても日本の生産性の低さを解消することになるというのが論理的につながらず、大きな違和感を抱いたからです。

本書ではこれから来るであろう「大企業の中小企業化」というアトキンソン氏とは正反対の主張が語られており、そのことが私がアトキンソン氏の論理に対して感じた違和感の原因を明らかにしてくれているように感じました。

以下、その部分を引用します。

「日本の企業は1970年からどんどん大企業化してきました。日本企業の過去50年を振り返ると、複数の子会社の部署ごとにバラバラに支払っていた経費を大企業化することによって一つに集約し、経費をグンと抑えてきました。言ってみれば効率化です。この経費の集約化によって日本は世界に冠たる地位を確立しました。やがて大企業社員の高給化に伴い、一人頭の経費は大企業のほうが中小企業よりも高くなります。すると今度は分散化へのベクトルが働く。この現象が今、起きようとしているわけです。例えば経理だけ特別の別会社を作って、そこへ比較的低賃金の社員を配置して大企業の子会社にします。それでも及ばず、人事部にいた50人を30人にして経費を落とす。部署をどんどん小さくする。こうして日本の大企業はどんどん子会社化して経費を下げていくわけです。今後、AI化、リモートワーク化が進めば、更にスリム化できます。これは日本だけではなく、世界的な傾向です。」

つまり、「生産性」の問題は大企業・中小企業という企業のサイズの問題ではなく、「価値」を作り出す根本の部分をどれだけのコストで実現できているのかという「費用対効果」の問題であるということです。

前回のブログの中で私は次のような指摘をしました。

「大企業は中小企業と比べて圧倒的に賃金が高いことは事実です。ですが、大企業がすべての活動を自分自身で行うことは不可能です。日本では、『下請け』という形で、低コスト体質で小回りの利く中小企業の活躍によって大企業の世の中に出す商品サービスを生産する下支えをしているので、現在の価格で提供できています。これをすべて大企業の従業員でということならば、価格は跳ね上がり、国際競争力は格段に下がってしまうので、結果的に大企業の海外移転は今よりも圧倒的に進んでしまうことになります。」

仕事の需要を取り込むこと(営業活動)は大企業が行い、実際の製品サービスの創造(価値創造)は中小企業が行っているのであれば、大企業が行っている「営業活動」の部分をAIを活用するなどして中小企業が直接行うことができるようになるとしたら、大企業の存在意義は失われ、「大企業の中小企業化」のほうが自然な流れであると理解することができます。

もっと言えば、「価値創造」さえできるのであれば、企業である必要すらなく、優秀な個人がフリーランスとして価値を創造し、AIを活用することで製品サービスを需要のある所に供給することもどんどん行われていくでしょう。

不思議なことに、著者は本書の中で「会社がなくなる」というフレーズをほとんど使用していないのですが、このタイトルはまさにこのことをもってつけられたのではないかと私は思っています。

とにもかくにも、デイビッド・アトキンソン氏の主張が世の中でもてはやされればされるほど私のモヤモヤは大きくなる一方でしたが、著者のこの主張はそれをかなりの部分払しょくしてくれました。

 

◆この記事をチェックした方はこれらの記事もチェックしています◆