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問題はロシアより、むしろアメリカだ

2023年7月1日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

以前(2019年6月17日)の「なぜイランとアメリカは仲が悪いのか」という記事において以下のような指摘をしました。

「今の報道だけを見れば、アメリカが正義、イランは厄介者、イギリスは無関係というように見えてしまう部分が大きいのですが、この歴史を見れば、この問題の根幹はアメリカを含む欧米、特に現在無関係のようにふるまうイギリスのかつての帝国主義的な政策が発端になっていることが分かります。」

そして、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵略を経て、私は2022年10月12日に「破られたゴルバチョフの約束」という記事を書いて、「アメリカが正義、ロシアは厄介者、西側世界はアメリカの味方」といった同様に一方的な見方に対して、

「中東戦争の引き金になったイギリスの二枚舌外交は有名ですが、この件についてのアメリカの姿勢も十分に二枚舌外交と言ってよいと思います。」

という「違和感」を表明しました。

それからすでに9か月の月日が流れていますが、このウクライナ戦争は継続しており、私のこの「違和感」はどんどん強くなっています。

そこで、この「違和感」の正体を探るのに適切な本はないものかと探していたところ、このブログでもすでにご紹介していますフランスの人口学者エマニュエル・トッド氏と池上彰氏の対談本である「問題はロシアより、むしろアメリカだ」を見つけ、早速読んでみました。

本書を読んで一貫して感じることは、西側陣営の国フランスの出自であるというバックグラウンドに関わらず、著者のものの見方が非常に多面的、つまりそれぞれの陣営の歴史・地政学に基づいた立場に立った公平なものであるということです。

もちろん、侵略をしているロシアに非があることを否定しない一方で、ロシアをそのような状況に追い込んだ責任についても考えることを排除しないという意味での「公平」なものの見方です。

例えば、プーチン大統領はLGBTを絶対に認めない立場を示しており、これに対してLGBTをリスペクトする欧米は自らを「進歩的」で彼を「反動主義者」だと考えます。

しかし、著者は自らはLGBTをリスペクトする立場をとることを明示しながらも、実際には世界の75%がいまだに父系制の家族構成を維持しており、プーチン大統領のほうが合理的だと考えられる人口のほうが多いという事実を示しています。

その際に著者が考える「理想の世界の状態」を表現した次の言葉が印象的でした。

「西側による世界の一極化が終了し、全世界で平和にだんだんと分断が進みそこで安定化すること」

このように、著者はそれぞれの主義主張は当然ありながらも、そのこと自体が相対的なものであるという理解に基づいて価値観の違う他者の存在を認められる冷静さを求めています。

その中で最も説得力が強いと思ったのは、今、ロシアが行っているウクライナ侵攻は、世界が第一次、第二次世界大戦を経て作り出した「国際秩序」を否定し、ある国が別の国を武力による侵略によって「現状変更」をすることであり、決して許されない異常なことであるという私たちの「常識」を完全に覆してしまう以下の指摘部分でした。

「1991年の湾岸戦争はクウェートに侵攻したイラクを追い出すのが目的の国連決議に基づくもので、多くの国がアメリカに賛同し、多国籍軍を派遣。当時のソ連もアメリカの武力行為に反対しませんでした。しかし、それから12年後のイラク戦争は、イラクが大量破壊兵器を開発しているのでこれをやめさせるという大義名分のもとに当時のブッシュ米大統領により始められた戦争でしたが、アメリカは国連決議もないまま、イギリスとともに、他の名ばかりの有志国を従えてイラクを攻撃。フセイン政権を倒したものの、結局イラクが大量破壊兵器を開発していた証拠は見つからなかったばかりか、イラクは内戦状態に突入し、混乱の中から過激な『イスラム国』が誕生してしまいました。この時、世界は国連の安保理の常任理事国が暴走すると、国連はそれを阻止できないことを思い知らされました。そして、今回のロシアです。世界は再び国連の無力さを目撃しています。そのロシアのウクライナ侵攻から3か月後の2022年5月18日、当のブッシュ元米大統領は次のように語りました。『抑制と均衡の欠如が生じ、一人の男が全く不当で残忍なイラク(ウクライナの間違い)侵略を開始することになった』その後、首を振りながら『ウクライナのことだ』と言いなおし、年のせいで間違えたと聴衆を笑わせた。(一部加筆修正)」

ブッシュ氏本人の無反省のみならず、それをジョークとして笑って受け取ってしまうアメリカの聴衆も同罪でしょう。

いや、これほどまでに過去に起こったことと現在進行している現実とのシンクロがあまりにハマってしまっている彼の発言について考えてみるに、彼が自己反省の下に本当に自らを「一人の男が全く不当で残忍な侵略者」と表現したと考えたほうが、このあまりのハマりようを説明するのには妥当なのかもしれないと思ったほどです。

つまり、このエピソードはアメリカの来し方と現状の在り方を完全に象徴しているというのが対談したお二人の共通認識だということだと思います。

 

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