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働かないアリに意義がある

2019年5月24日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

私は子供のころ筋金入りの「昆虫オタク」だったという話はこのブログで何度もお伝えしてきたことですが、様々な昆虫を採取する中で、唯一飼育したいと思っていたのに断念した昆虫がアリです。

現在では、ゼリーみたいな材質を土に見立てて、簡単にアリを行動観察しながら飼育できるキットが安く買えるようですが、当時はそれがあっても高く、小学生が買えるような代物ではありませんでした。

ですから、自分で空き箱やプラスチックなどいろいろ工作して土を中に入れて、、、という具合にチャレンジしたものがすべて失敗に終わったためです。

私にとってそんな幻の昆虫である「アリ」の生態について分かりやすく解説し、なおかつ人間社会に対する示唆を与えてくれる良書に出会いましたのでご紹介します。

それは、「働かないアリに意義がある」という本です。

誰もが働き者だと思っているアリですが、実際はその20%は「働かない」、そして個体ごとにどのくらい働くかには大きな差があるという事実をとらえて、このことの意味を人間社会にも応用して考えようというのが本書の趣旨です。

厳しい競争を生き延びられる性質だけが将来の世代で広まっていくというのが進化の大原則なので、「働かないアリ」が現在も存在し続けているということはそのこと自体に何らかの肯定的な意味があるということになります。

これを著者は、「予測不可能性」への対応力という考えで説明しています。

私たちは、巣の周りを探し回るアリの部隊を見て、「アリは働き者」というイメージを持つわけですが、常にすべてのアリに全力で働くことをプログラムしてしまうと、突然セミの死骸(非常に大きな餌)がアリの巣の付近に現れるという僥倖に接した時、それを回収する要因を確保できなくなってしまいます。

この「予測不可能性」はエサに関することだけではありません。私もよくやりましたが、人間の子供たちはよくわざとアリの巣を破壊するいたずらをします。これによって、突然にその修繕の必要性が生じます。

これらのような環境変動が起きた時に対応できる「余力」をアリ社会全体で確保しておく必要があるということです。

また、アリが外で獲物を見つけた時、仲間のアリにその場所を知らせるためにフェロモンを地面につけながら道を知らせるという性質があります。

ですが、アリの群れの中には一定の割合でこのフェロモンの追跡を上手に行えずにルートを間違えてしまう個体がいるらしいのです。このような「間抜け」な個体はいずれは淘汰されそうなものなのですが、いつまでたってもこの割合は変わりません。

これについては、「間違える個体による新たな効率的ルートの発見」の効果で説明しています。

つまり、これはルートを「間違える」ことによって、それまでは全く知らなかった「偶然の発見」のチャンスを排除しない仕組みだと言えるのです。

「働き者」や「お利口」な個体ばかりをそろえる組織より、ある程度「バカ」もいる組織の方が長期的、結果的には有利となるということでしょうか。

人間の会社組織にもその「余裕」が必要なのかもしれません。

著者は、ビジネスの世界ではなく、学者の世界で活躍されていますが、このアリから学んだ「働かないアリ」の原理を自らの土俵である科学の世界に当てはめて以下のように表現されていたのが印象的でした。

「科学は『他者もそうだと言わざるを得ない』客観的な方法で世界を記述し、その法則性を明らかにする。それゆえ、科学には他の分野に比べて破格の資本が投入されている。科学は役に立つから重要なのだ。しかし、役に立つことだけをやっていると、何か変化が起きた時対処ができなくなってしまう。つまり、長期的な存続のために短期的効率を犠牲にするという選択ができるようであってほしい。いつまでも無駄を愛し続けてほしい。」

非常に有用な示唆に富んだ指摘だと思います。

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